新妃
紂王伝 第97話 ――天下にその名を轟かせる北西の大国、九侯の使節行列が、ついに朝歌の都へと足を踏み入れた。新王妃の輿入れをひと目見ようと、大通りには朝歌の民が隙間なく並び、地を揺らすような大歓声で一行を歓迎している。大国の威信を象徴するかのように、その行列は実に三千名に及ぶ圧倒的な大編成であった。唐国の国境からは、我が商の直属国軍千名が厳重な護衛として先導を務めており、一糸乱れぬ行軍が王朝の威光を天下へと誇示していた。宮廷へ到着した行列は、あらかじめ用意させていた格式高い仮の滞在邸宅へと案内され、長旅の疲れを癒やす。その間に、私は商の群臣たちを従え、厳かな空気の満ちる大広間にて新王妃を迎え入れるための居並びを調えた。「九侯息女様、ならびに正使の皆様方、ご入内にございます!」伝令の高く鋭い声が広間に響き渡る。重々しい扉が開かれ、商王朝の古き法度と作法に則り、絢爛たる装束に身を包んだ一団がゆっくりと大広間の中心へと進み出てきた。「天下的の主たる陛下に、拝謁の栄誉を。此度、我が九国の命運を懸け、息女を陛下の御許へと捧げ奉ります――」正使による、商の伝統に則った長々とした挨拶の口上が淀みなく述べられていく。私は玉座から彼らを見下ろし、大国を繋ぎ止める為政者としての重々しくも温かい歓迎の辞を返した。儀礼が滞りなく済んだ後、私はまず、愛娘を我が後宮へと嫁がせてくれた九侯への返礼として、王朝が誇る至高の財貨や青銅器の数々を下賜した。続いて、この大いなる婚礼の儀を寿ぐために参列した我が商の重臣たち、そして各地から集まった諸侯やその代理人たちへも、王の度量を示す祝いの品々を惜しみなく分け与えてゆく。宮廷内での儀式を終えると、いよいよ本番の始まりであった。私は新たに側室となった九侯の息女を伴い、王宮の外で待ち侘びている民たちの前へと姿を現した。新王妃のお披露目である。これに合わせて、朝歌の街中には王の私財から惜しみなく放出された極上の酒や、数え切れぬほどの牛や羊の肉が振る舞われた。歓喜に沸く朝歌の都を、私たちは豪奢な馬車に揺られながらゆっくりと巡っていく。「陛下、万歳! 新妃様、万歳!」あちこちの通りから、民たちの割れんばかりの歓迎と婚姻を祝福する声がこだまし、天へと昇っていく。私は隣に座る新たな側室の様子をそれとなく窺いつつ、この華やかな熱気の中で、この国の未来に思いを馳せていた。




