傅華
紂王伝 第98話――盛大を極めた都でのお披露目の式典も無事に終わり、私は新妃を伴って奥(後宮)へと足を進めた。九侯の娘を迎えるにあたり、事前に急ピッチで新しい屋敷を建てさせてはいた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、彼女の身の回りを世話するために付き従ってきた女官の数が、こちらの予想を遥かに上回る「五十名」という大所帯だった。これほどの人数となれば、用意した本邸だけでは到底収まりきらない。急遽、彼女たちのための侍女専用の宿舎を増築せねばならず、後宮はにわかに慌ただしい空気に包まれていた。だが、何よりも先に果たすべきは、出迎えに立ってくれている我が家族への引き合わせだ。「風、禄父、妲己。――こちらの女性が、この度新しく側室に入った、九侯の息女、傅氏の華だ。仲良くやってほしい」続いて、緊張の面持ちで控える新妃へと視線を向け、穏やかに語りかける。「傅華、紹介しよう。私の正妻であり、この後宮を統べる王后の嬴氏の風だ。その隣にいるのが、我が息子で王太子の禄父。そして、その隣にいるのが、側室の己氏の妲だ。よろしく頼む」紹介を受けた一同は、互いに一歩進み出ると、宮廷の法度に則って極めて丁寧な挨拶を交わし合った。風は王后としての度量を見せて優しく微笑み、禄父も王太子らしく立派に一礼する。そして、胸の内に深い傷を隠したままの妲己も、あの日以前と変わらぬ完璧な淑女の礼を取って新妃を歓迎してみせた。挨拶が滞りなく済んだ後、膨大な数の婚礼調度品や荷物の搬入もあったため、私は手際よく彼女たちを新築の邸宅へと案内させ、落ち着かせることにした。最前線の過酷な地から、はるばる朝歌の都まで四百キロ以上の道のりを旅してきたのだ。彼女も女官たちも、心身ともに限界まで疲弊しているに違いない。事前の協議の結果、彼女の身体を労るためにも、初夜の儀は「七日後」とすることが正式に決まった。大国の輿入れという国家級の公務を終え、私の身体にもずっしりとした疲労がのしかかっていた。今夜は、張り詰めた仮面を外して、あの無条件の優しさに包まれたい。「……よし。今夜は風の屋敷へ行こう」私は小さく息を吐くと、愛しい正妻が待つ温かい部屋へと、静かに足を向けるのだった。




