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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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天井の染み

紂王伝 第95話 家族四人で特大の敷布団に並び、あの温もりに魂まで満たされた夜があった。私はその幸せな余韻を胸の奥底に堅く閉じ込め、冷徹な決意とともに、再びあの絢爛たる高級飲食店へと一人で足を踏み入れた。私が受付で静かに己の名を告げると、案内係は以前と同じように、外界の喧騒を完全に遮断した秘匿の個室へと私を導いた。だが、そこで二時間ほど放置された後、現れたのは別の使用人だった。彼らは私のために、外から一切の中身が見えない厳重な「輿こし」を用意していた。「――こちらへどうぞ」言われるがまま、輿の暗がりのなかへと乗り込む、輿が進み出す。窓のない暗闇のなか、気付けば貴族街にある広大な邸宅の敷地内へと、輿のまま深く侵入していくのが分かった。店から直接、あの男の私邸へと極秘裏に連れ込まれたのだ。邸宅の入り口で輿を降りると、控えていた者たちが恭しく頭を垂れ、私を奥へと案内する。「やあ、妲己様。お役に立てて何よりです。体調等もお変わりないようで、安心いたしました」廊下の向こうから姿を現した微子啓びしけいは、いかにも温厚な兄としての、恭しい挨拶を述べてみせた。そして、手ずから私を、邸宅の最奥にある私的な寝室へと案内し始める。この男の一挙一動に、いちいち心を動かされるのすら嫌だった。(私はただの、物言わぬ人形よ――)そう自分に言い聞かせ、一切の感情を殺した無言のまま、男の後ろを静かに付いて歩いた。重々しい寝室の戸が閉められ、完全なる密室となった、まさにその瞬間だった。「――妲己様。不快なのは理解いたしますがね。……あまりに目に余る態度を取られるようであれば、例えこうして身体を許していただいても、私は悲しみのあまり……弟(受)に対して、私たちの不貞の告白を今すぐ届けてしまいますよ? ね♡」逃げ道を塞ぐ、あの粘つくような呪いの言葉。私の胸の奥から、ドロリとした激しい憤りがせり上がってくる。私は袖の中で拳を強く握り締め、男を激しく睨みつけた。すると、微子啓はその鋭い刺すような視線すらも愉しむように、唇の端を歪に釣り上げて薄ら笑いを浮かべた。「あは♡ 無表情に対応されるくらいなら、いっそ激しく嫌われた方が、私は何倍もゾクゾクいたしますね」――ああ。この男だけは、もう本当に、何を言っても無駄なのだ。これ以上の問答は、私の魂をただ無駄に擦り切らせるだけだった。私は男の顔から視線を外し、完全に心を凪がせながら、無言のまま自ら衣服の紐へと手をかけた。一刻も早く、この「作業」を終わらせるために。「おや、妲己様、お待ちを。……それは、私が」忌々しい声音とともに、微子啓の大きな手が、私の衣服へと乱暴にかけられる。その冷たい手が肌に触れた瞬間、全身の毛穴がひっくり返るような激しい悪寒が走ったけれど、私はそれすらも、頭の中で静かに遮断した。冷え切った寝具のなかへと、横たわらされる。私は、覆いかぶさってくる微子啓にその身体のすべてを預けながら。ただ、しんと静まり返った暗い天井の染みを、何も映さない虚ろな瞳で見つめ続けていた。(……気にするな、私。お前が触っているのは、ただの泥の人形よ)私の本当の心は、あのみんなで並んで眠った、あの最高に暖かかった家族の夜の中にいる。心だけは。この本当の体温だけは。永遠に、世界で一番大好きな、私の旦那様だけのものなのだから――。

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