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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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心だけは絶対に

紂王伝 第89話 ――もはや、私に遺された選択肢など、どこにもなかった。私が了承の意を伝えると、微子啓はこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべ、今日だけは大人しく私を解放してくれた。「妲己様。次回はできるだけ、早めにお願いいたしますね。……あまりに時間が経てば、悔恨の念に負けて、弟に全てを吐き出してしまいますから。ね♡」最後の最後まで、逃げ道を塞ぐ呪いの言葉を付け加えられて。私は店を出た後、周囲に怪しまれないよう、あえて市場へと立ち寄った。そこで適当なお土産をいくつか買い込み、貴族街の入り口に待たせてあった我が家の馬車へと乗り込む。馬車に揺られながら、奥(後宮)の屋敷へと帰還する道中。一気に押し寄せてきたのは、泥のような疲労感だった。(疲れた……。結局、すべてあの男の思い通りになってしまった……)故郷の冀州きしゅうから私についてきてくれた、腕利きの護衛百人にあの男の暗殺を頼もうか、とも一瞬頭をよぎった。けれど、あの男の執務室に『偽りの密通の書』がある限り、殺したところでそれは見つかってしまう。もう、どうしようもないのだ。(さあ……今すぐ、心を切り替えるのよ、私!)屋敷の玄関が見えてきたところで、私は自分の両頬を強く叩いた。嬴風えいふうお姉様や、大好きな禄父ろくふくんに、これ以上余計な心配をかけるわけにはいかない。「ただいま戻りました! 市場で色々と買い込んできましたので、皆様にお届けしますね」扉を開けた私は、満面の笑みを浮かべて、何事もなかったかのように声を弾ませた。そう、これでいい。たとえこれから先、あの男にこの身体をどれほど弄ばれようとも。気にするな。私の心は、大好きな旦那様だけのもの。心だけは――何があっても、絶対にあの男に渡しはしない。

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