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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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微子啓の訪問

紂王伝 第83話 奥(後宮)の邸宅で愛する家族と束の間の寛ぎの時間を過ごしていると、微子啓びしけいが訪問してきたとの報告が入った。私は風や、子供たちを連れて、皆で玄関へと出迎えに向かう。ふと隣を見れば、妲己だっきの表情が少しだけ強張っているのが分かった。……無理もない。あの伯邑考はくゆうこうの凄惨な事件を思い出してしまうのだろう。あるいは、微子啓が余計な誘いさえしなければこんなことにはならなかったのだと、彼を恨んでいるのかもしれなかった。「やあ、兄上。よくぞ来てくれた」私はあえて昔のように『兄上』と気さくに声を掛けた。周囲の使用人たちに対し、これが公式な謁見ではなく、あくまで親族としての私的な集まりなのだと強調しておくためだ。「ああ。急な訪問だというのに、温かく迎えてくれて感謝するよ」微子啓は穏やかに微笑むと、侍従に持たせていた心のこもった贈り物を、挨拶と共に家族一人ずつへと配っていった。それぞれがお礼を口にするのを見届けてから、私は彼を奥の応接室へと案内した。酒を用意させ、他愛のない雑談をしばらく交わした後。微子啓はふっと表情を引き締め、静かに居住まいを正した。「――じゅ。今日はな、お前に今一度、しっかりとした謝罪と感謝を伝えたくて足を運んだのだ。私のあまりに浅はかな行動で、王朝に多大な迷惑をかけてしまったというのに……お前は私を厳しく罰することもなく、西方の要職に留めて助けてくれた」兄は自嘲気味に口元を歪め、胸の内をぽつりぽつりと吐露していく。「だが、すまない。あの夜のお仕置きがあまりに恐ろしくてな……。恐怖で身体が竦み、この一ヶ月、なかなか次の行動に移せなかったのだ。本当に、情けない兄で申し訳ない」「いいえ。もう済んだことです、兄上」私は酒杯を傾けながら、穏やかに首を横に振った。「私はこれからの兄上の働きに、大いに期待していますよ」あの生首の夜以来、私たちの間に空いてしまっていた心理的な距離。それを無理に埋めようとするのではなく、少しずつ、着実に昔の形へ戻していけば良い。そう思いながら、私は久しぶりに兄上と時間を忘れて深い酒を酌み交わした。夜も更けた頃、かなり酔いの回った彼に「今夜はこのまま泊まっていけば良い」と提案したのだが、兄上は小さく首を振って立ち上がった。「いや、表に馬車も待たせているからね。お姉様や子供たちに、帰りの挨拶をしたら失礼するよ」「そうか。では、またいつでも来るといい」皆のいる広間へと向かい、丁寧に戻りの挨拶を交わす兄上の後ろ姿を見つめる。色々あったけれど、これでようやく一歩、前へ進めた。(――まあ、これで良かったんだろうな)私は胸の内でそう呟きながら、静かに喉の奥へ酒を流し込むのだった。

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