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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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駐在官

紂王伝 第78話 ――崇国兵の受け入れという提案に、一応の結論を見出せぬまま、喧騒たる諸侯会議は幕を閉じた。諸侯が次々と帰国の途につく中、周伯の代理人たる散宜生さんぎせいが、静かに私の御前へと進み出て平伏した。羑里ゆうりにて呂望らと共に悠々自適の研究生活を送る主君・姫昌の厚遇ぶりをその目で確認し、一定の得心がいったのだろう。「陛下へ、心からの謝意を。……併せて、我が周国より一つ、利便の提案がございます」散宜生は慇懃な態度で主君への配慮を称えた後、鋭い眼光を伏せながら本題を奏上した。「我が周国は朝歌ちょうかより西方の遥か彼方に位置する僻地。朝廷との些細な意思疎通にも、多大なる時日を要します。そこで、大きな権限を持たぬ我が周の家臣を、ここ朝歌の地に常駐させるお許しをいただきたいのです。細かい政務であればその駐在官に、国家の命運に関わる大事であれば羑里の姫昌殿へ直接図り、本国へと迅速に伝令を走らせる。無論、王朝からの公的な勅旨等は、今迄通り西方の本国へ直接下賜くだされば幸いにございます」その提案の裏にある「真意」を、私は為政者の脳で即座に看破した。連絡の円滑化を大義名分とし、実質的な諜報の拠点をこの首都・朝歌に公然と築こうという外交戦略だ。先の伯邑考の暗殺事件以来、周国内の反商感情は臨界点に近い。下手に拒絶して火種を大きくするよりは、懐に取り込んで監視する方が上策か。「良しなに取り計らうが良い」私は冷徹な王の声音で応じた。「西方の諸事を管轄する担当官は、我が兄・微子啓びしけいである。兄上の裁可が得られるならば、私から異議を挟むことはせぬ」すべては啓兄上の双肩に委ねられた。先の侍女殺害および生首の件で、私の「暴君の演技」に完全に心を折られ、未だ悪夢に怯えているであろう兄上が、この外交的難題をどう差配するか。決着がつけば、いずれ朝議の場にて報告されるだろう。……念のため、宰相たる比干叔父上には内々に報告を上げておくべきか。散宜生が退出した後、今度は列席していた妲己の父、冀州侯が恭しく私の前に歩み寄った。「陛下。我が娘・妲己様も、この朝歌の宮廷にて健やかに、麗しく成長されているご様子。臣、冀州侯は万感の思いで安心いたしました。此度の格別の配慮に報いるためにも、今後とも王朝への更なる忠誠を捧げることをここに誓います」「おお、冀州殿。よくぞ言ってくれた」私は王の仮面を和らげ、しゅうとに対する丁重な態度で挨拶を交わした。妲己が私にとっていかにかけがえのない宝であるか、そして彼女を育んだ貴殿のこともまた、商王朝の重鎮として等しく大切に思っているか。言葉の端々に情を込め、新参諸侯との絆を強固に繋ぎ止めた。今日と明日、宮廷は諸侯たちを送り出す儀礼だけで暮れてゆくだろう。為政者としての多忙な日常に身を置きながらも、私の胸の奥には、愛する家族の元へともうすぐ戻れる安堵が、小さく灯り続けていた。

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