父と3年振りの
紂王伝 第76話 ――現在、朝歌にて開催されている諸侯会議に、我が実父である冀州侯が列席していた。宮殿へ遣わされた使者から面会の申し入れを受け、私は胸を躍らせながら嬴風お姉様の元へと足を運んだ。「ええ、妲己ちゃんのお父様ならば大歓迎よ。私も禄父も正装で出迎えるから、妲己ちゃんも美しく着飾りなさいね」お姉様は我が事のように喜び、快く背中を押してくれた。私は使者へ向けて、「父との再会を心より楽しみにしておりますと、お伝えください」と丁重に返答した。故郷の冀州を離れて、すでに三年。私と共に朝歌へと付いてきた侍女たちの中には、父の使節団の中に肉親や旧知の者が含まれている子もいるはずだ。父との対面が無事に済んだ暁には、彼女たちに交代で幾日かの休暇を言い渡そう。その折には、実家への土産代として、私から臨時の俸給(手当)を添えてやるのが良かろう。そんな主君としての心地よい義務感に突き動かされ、私は弾む心で謁見の準備に奔走した。夕刻、近衛兵の厳重な先導のもと、懐かしい父の姿が宮殿へと現れた。「お久しぶりにございます、妲己様。ご壮健であられるお姿を拝見でき、臣としてこれ以上の安堵はございませぬ」父は実の娘である私に対し、深く頭を垂れて君臣の礼を尽くす。寂しさはあったが、それが宮廷の法度だ。続いて父は、私の傍らに並び立つ二人へと、最敬礼の姿勢をとった。「初めまして嬴王后陛下、ならびに王太子殿下」「遠路はるばる、ようこそ朝歌へお越しくださいました。歓迎いたしますわ、冀州侯殿」「王太子の禄父です。よろしくお願いします、冀州侯殿!」お姉様と禄父が気品溢れる挨拶で応じ、私たちはまず、旅の疲れを癒やすためのささやかな歓迎の宴を催した。宴が引いた後、私は自らの邸宅へと父を招き、ようやく一対一での内密な対面の時を迎えた。「妲己様。王宮の皆様にこれほどまで大切にされ、健やかに暮らしておられるようで安心いたしました」「もう、お父様。お父様にまで『様』などと呼びかけられると、酷くむず痒い気分になりますわ」私がふと本音を漏らすと、父は厳格な顔を少しだけ崩し、父親の慈愛に満ちた笑みを浮かべた。「我が娘とはいえ、天下の主たる王の御妃であられます。言葉を崩すわけにはまいりませぬ」王族としての宿命を理解しつつも、実の親との間にできた見えない垣根に、胸の奥が少しだけ切なくなる。その後、父は会議の場において、新参の小諸侯に過ぎぬ自分に対し、旦那様がどれほど格別の配慮を示してくれたかを熱く語ってくれた。商王朝が主導する街道の整備や雇用拡大の恩恵は冀州にも及んでおり、商に臣従せぬ周辺諸侯の領地から、豊かな商の治世を求めて移民が激増しているという。結果として、我が実家の国力も著しく増大しているのだと。「妲己様がこうして幸福そうにされているのが、何よりも嬉しく、誇らしい」父はしみじみと私を見つめ、感慨深げに言葉を繋いだ。「実に見事になられました。願わくは……一日も早く王との間に玉のようなお子が授かり、商の安泰が揺るぎないものとなれば良いのですが」「っ、も、もう……っ! そのような大それたお言葉は、私ではなく、旦那様に直接進言してくださいませ!」私は瞬時に耳ぶちまで朱に染め、照れ隠しに声を荒げてお父様から顔を背けた。お父様の前では、私はいつもの幸福な『妲己』でいられた。しかし、その優しい祝福の言葉が、私の穢されてしまった下半身と、旦那様への消えぬ罪悪感をチクリと刺し、私の笑顔をほんの一瞬だけ、強張らせたことには――誰一人として気づいてはいなかった。




