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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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厚遇

紂王伝 第74話 ――朝廷に、頻繁に行われる近隣の諸侯会議と違い、遠方の諸侯も集まる諸侯会談の緊迫感が戻ってきた。居並ぶ近隣の有力諸侯たるすう侯、きゅう侯、がく侯。そこに遠方の雄である冀州きしゅう侯、しょう侯、正式な代理人として派遣された周の重臣・散宜生さんぎせいが、私の御前へと平伏している。相変わらず、周から届けられる朝貢の量と質は見事なものだった。財貨を惜しまぬその姿勢は、ひとえに我が心象を和らげ、羑里ゆうりに幽閉されている主君・姫昌きしょうの身柄を奪還せんがための布石に他ならない。先の伯邑考はくゆうこうの凄惨な事件に対し、私の中に政治的な負い目があるのは事実だ。しかし、だからといって彼らの懇願に安易に応じるわけにはいかなかった。私は感情を削ぎ落とした王のかおで、散宜生を見下ろした。「散宜生よ、遠路はるばる大儀であった。朝歌ちょうかの地にしばらく滞在し、羑里にて姫昌殿と対面するが良い。これからの周の在り方について、しかと膝を突き合わせて打ち合わせをされるがよかろう」破格とも言える、主従の面会許可。羑里では箕子叔父上の計らいにより、姫昌は賓客ひんきゃく同然に厚遇されている。その実態を周の最高幹部に直に見分させることで、西方の反商感情を未然に融解させる――それが私の計算であった。「陛下、お久しぶりにございます。……また後刻、内々に拝謁はいえつのご相談を」衆人環視の場であることを弁え、私に密かに声を掛けてきたのは、崇侯――その獰猛なまでの忠誠心から伯の地位を授けられ頼りになる男であった。彼はあえて厳格な君臣の礼を取り、速やかに私の側を離れてゆく。その隙のない立ち回りに内心で感心しつつ、私は続いて、列席している妲己だっきの父・冀州侯へと視線を巡らせ、周囲の耳目を集めるように声を挙げた。「おお、冀州殿。出来ればしばらく朝歌に留まり、妲己と相見あいまみえてくだされ。領地が遠いゆえ、親子が顔を合わせるのも実に三年ぶりであろう。水入らずで積もる話を交わせば、妲己もさぞや喜ぶはずだ」新参の諸侯に過ぎぬ冀州侯を、王の親族として如何に特別扱いし、尊んでいるか。それを天下に公言することで、彼の忠誠を繋ぎ止める。九侯、そしてこの冀州侯が盤踞ばんきょする地域は、我が商王朝が推し進める「東方遠征」の兵站へいたんを支える最重要の防衛線だ。無論、私の絶対の支持者である崇侯虎も同様。彼ら地政学的な要を握る者たちに対しては、どれほど破格の優遇を与えようとも、決して足りるということはないのだ。私は拝謁の間を満たす諸侯たちの視線の熱量を感じながら、次なる盤面に、静かに思いを馳せるのだった。

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