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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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今の私は笑えている?

紂王伝 第72話 ――今日という日を、私はどれほど待ち侘びて、同時に恐れていただろうか。一ヶ月の果てに、最愛の旦那様が奥へと帰還される。ひと月前のあの日、私はあろうことか、私を案じて伸ばされた旦那様の御手を拒絶してしまった。あの瞬間に旦那様の顔を過った、深い絶望を湛えた悲しげな表情が、今も胸を締め付け続けている。私のせいで、旦那様に二度とあんな顔をさせてはならない。今日こそは、万全の笑顔で旦那様をお出迎えし、その心を安心させて差し上げるのだと、私は固く心に誓っていた。「妲ちゃん、本当に大丈夫? 決して無理をしては駄目よ」「姉ちゃん、僕がここで手を握っててあげるからね」私の内に潜む緊張を察してか、嬴風お姉様が痛ましげに、禄父が健気に言葉をかけてくれる。二人の無条件の慈愛に深い感謝を抱きながら、「ありがとう。うん、大丈夫よ」と答えた。禄父の小さな手から伝わる温もりが、私の張り詰めた心を少しだけ解きほぐしてくれた。そして、ついに待ち焦がれたその姿が、視界の先に出現した。一瞬、身体の奥が強張る気配がした。けれど、私は私の心を必死に鼓舞する。大丈夫、ここにいるのは私を誰よりも愛してくれる旦那様なのだから。「やあ風、禄父、妲己。久々だな。――立ち話も何だ、とりあえず屋敷に入ろうか」いつもと変わらぬ、耳に心地よい低音の声音。旦那様は労うような眼差しを向けながら、風お姉様を、そして禄父を愛おしげに腕の中へと抱き込んでいく。そうして、ついに私の前で、その大きな身体が止まった。旦那様の逞しい両腕が、私の華奢な身体をそっと包み込む。肉体を媒介して伝わってくる圧倒的な熱量に、私の脳裏を支配していたすべてのトラウマが、陽光に晒された霧のように霧散していった。(ああ、暖かい……。うん、大丈夫……っ)待ち焦がれた旦那様の温もり。私を壊そうとする者などいない、絶対的な守護の領域。やっと、やっと大好きな旦那様の元へ帰ってくることができた。溢れそうになる涙を必死に堪え、私は旦那様の胸元から、そっとそのお顔を見上げた。――最愛の人の瞳に映る私は今、ちゃんと、あの幸福だった日々のように笑えているだろうか。

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