生首の悪夢と優しさと
紂王伝 第59話 あの地獄のような会議室での叱責のあと、嬴風お姉様や禄父君の温もりのおかげで、私はほんの少しずつ、本当に少しずつだけど落ち着きを取り戻してきていた。当日の夜は、部屋へ来てくれた禄父君にただ無言で抱きしめられながら、縋るようにしてどうにか眠りについた。けれど、翌日からは自分の部屋のベッドで一人で眠ることなんて、到底できなくなってしまった。私は嬴風お姉様にお願いして、お姉様の屋敷の、さらにその一番奥にあるお姉様の寝室へ入れてもらい、同じ寝具のなかで一緒に横になって眠らせてもらうことにした。そうでもしなければ、正気でいられなかったのだ。目をつむれば、私の考えなしの浅はかな行動のせいで殺されてしまった、あの優しかった侍女たちの生首が、どす黒い血を流しながら恨めしそうに私を見つめてくる。「いやあぁぁぁーーっ! ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」夜中に自分の悲鳴で跳び起き、ガタガタと震えながら狂ったように謝り続ける私を、お姉様はその都度、優しく力強く抱きしめてくれた。「大丈夫、大丈夫よ、妲ちゃん。私はここにいるわ。何も怖くないからね」何度も、何度も、私が落ち着くまでその細い腕で抱きしめ、背中を優しく摩ってくれるお姉様。その温かさに包まれて、私は毎晩、やっとの思いで泥のような眠りにつくことができていた。ちなみに、禄父君はあの日以来、私のことを抱きしめてはくれなくなっていた。ちょっとだけ、寂しい。あんなに私を心配してくれたのに、男の子だから、もう十歳だから恥ずかしくなっちゃったのかな……なんて、そんな他愛のない寂しさを覚えるくらいには、私の心も少しずつ回復してきていたのだ。そして――事件から四日目が経った、その日の夕暮れ。あの日以来、ずっと執務室に籠もりきりだった旦那様が、ついに私たちのいる奥の邸宅へと帰ってきた。「……旦那様が、戻られた?」その報せを聞いた瞬間、私の心臓はドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。あんなに大好きで、会いたくてたまらなかった旦那様。けれど今の私は、旦那様が部屋に入ってきたとき、ちゃんとそのお顔を見ることができるだろうか。また、あの光のない冷徹な瞳で私を見下ろすのではないか。そんな言葉にできない恐怖と不安に身を震わせながら、私は旦那様の足音が近づいてくるのを、ただ息を潜めて待つことしかできなかった。




