家族の温もり
紂王伝 第57話 旦那様から下賜された煌びやかな財宝と、あの血の滴る生首の数々。それらをお付きの侍女たちに無理やり持たせながら、私は奥の屋敷へと這うようにして帰った。正直に言うと、あの冷たい会議室を出てから自分の屋敷に辿り着くまでの道中、自分がどうやって歩いていたのか、周囲がどんな様子だったのかは、ショックのあまりほとんど覚えていない。「――妲(ゃん! しっかりしなさい!」突然、嬴風お姉様に両肩を強く掴み揺さぶられて、私はようやく現実に意識を引き戻された。私のただならぬ様子と、後ろの侍女たちが抱える箱から漂う生臭い血の匂いに気づいたお姉様から、何があったのかと静かに事情を尋ねられる。私はガタガタと歯の根を鳴らしながら、羑里で何をしたのか、そして旦那様に何を言われたのかを、隠さず正直にすべて説明した。話し終えた瞬間、パチン、と乾いた音が響いた。私の頬に、熱い衝撃が走る。お姉様に叩かれたのだと気づくまで、少し時間がかかった。「……なんて馬鹿なことをしたの、貴女は」お姉様の声は震えていた。けれど、その直後、お姉様は私の身体を壊れ物を扱うかのように優しく、強くその腕の中に抱きしめてくれた。「どれほど恐ろしかったことか。……でもね、貴女がしたことはそれほどまでに恐ろしい、決してやってはならない大罪だったのよ」耳元で聞こえるお姉様の厳しくも温かい声に、私の心の奥の堰が切れた。お姉様の胸に顔を埋め、私は子供のように大声をあげて泣いた。間違ったことをした私を全力で叱ってくれて、それでも見捨てずに愛してくれる。お姉様の圧倒的な優しさに包まれて、私の狂いそうだった心は、ようやく少しずつ落ち着きを取り戻していった。「その禍々しい箱の処分は、すべて私に任せなさい。貴女はもう、自分の部屋で休むのよ」お姉様の手配で財宝や生首の処理をすべて引き受けてもらい、私はふらつく足取りで自分の部屋へと戻った。けれど、ベッドに入っても身体の芯の震えは一向に止まらない。旦那様のあの冷徹な瞳が脳裏に焼き付いて離れず、不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになっていた、その時だった。「妲姉、入るよ?」コンコン、というノックと同時に、禄父君が返事も待たずに部屋へと入ってきた。彼は怯える私の様子を見ると、何も言わずにベッドの端へ腰掛け、そっと私の身体を小さな両腕で抱きしめてくれた。「大丈夫だよ、妲姉……」その小さな身体から伝わってくる確かな温もりが、私の張り詰めていた心の糸を、優しく解きほぐしていく。言葉なんて何もいらなかった。ただその温かさに縋るようにして、私は禄父君の腕の中で、気がつけば泥のように深い眠りへと落ちていた。




