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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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警告

紂王伝 第56話 伯邑考の身に起きた悲惨な事件を知り、血相を変えて私の元へと詰め寄ってきた比干と箕子。激昂する二人の叔父上を私はひとまず宥めると、場所を私室近くの会議室へと移動させた。「大王、何故群臣の前で大罪人を糾弾なさらんのです!」なおも息巻く比干叔父上に、私は静かに理由を説明した。衆目の集まる公の場で妲己や啓兄上を詰問すれば、事件の全貌が宮廷中に広がり、商王朝の威信低下に繋がると、理路整然とした私の説明に、二人の叔父上もようやく苦渋の表情で納得してくれた。そうして私は、不届きな身内二人を会議室へと呼び出させた。待つこと三十分ほど。まず、宮殿内の近場にいた妲己がやってきた。状況が掴めず、ただ困惑している様子がその表情から見て取れる。愛しい側室の怯える姿に胸が微かに痛んだが、あえて声をかけることはせず、私は冷徹な王の仮面を被り続けた。さらに三十分が経過した頃、ようやく啓兄上も部屋へと入ってきた。これで役者は揃った。「微子! 妲己! 貴様らは一体どれほどの愚行を犯せば気が済むのだ!」比干叔父様の怒号が部屋中に響き渡る。人の道を説く比干叔父様の叱責と、政治的な損失を理路整然と説く箕子叔父様の苦言。二人が代わる代わる放つ容赦のない糾弾の嵐を、私はただ無表情のまま黙って聞き、認め続けていた。そして、叔父上たちの言葉が途切れた瞬間、私は冷たく言い放った。「比干、箕子。……其方たちの言い分は、もっともである。寸分の狂いもない正論だ」二人の叔父上の言い分に深く同意を示した上で、私は一転して、怯える微子啓と妲己へと底冷えするような双眸を向けた。「――だが。私は、この二人を称賛しよう」「大王!?」驚愕のあまり椅子を蹴立てて立ち上がろうとする比干叔父上を、私は片手で制した。そして、周囲に控える近衛兵たちに『完璧な暴君』の姿を見せつけるため、唇の端をわざと歪に釣り上げてみせた。「何故か? 今回の素晴らしい『喜劇』で、この私を大いに笑わせてくれたからな。退屈な宮廷にあって、これほどの見せ物はそうそうない。ゆえに、相応の褒美を渡そう。――おい、例の物を、二人に」側の侍従に声をかける。運ばれてきたのは、きらびやかな財宝の山。そして、その隙間に取り混ぜられた、昨日私が直々に処刑を命じた共犯者たちの生々しい生首だ。「きゃあああああああああっ!?」予想通りの凄まじい悲鳴をあげ、妲己が床へと崩れ落ちる。啓兄上も顔面を土気色に変えてガタガタと震え出した。胸が裂けるような光景だったが、ここで甘やかすわけにはいかない。私はさらに声を冷たく冷え切らせ、追撃の言葉を放った。「ああ、安心せよ。その者たちはな……。この私が直々に、伯邑考へ朝歌での滞在と面会の許可を出したというのに、それを無視して今回の蛮行に協力した不届き者たちだ。私の王命を軽んじた罪で、先ほど全員の首を刎ねさせておいた」恐怖で呼吸すら忘れたかのような二人に、私はこれ以上ない決定的な『死の警告』を叩きつける。「先ほど申した通り、二人に罰は無い。この財宝はすべてお前たちのものだ。大いに受け取るが良い。……が。――我が商において、王命を破ればどうなるか。それだけは、脳髄にしかと刻んでおくことだ」次にお前たちが勝手な真似をすれば、その時は身内であっても首を刎ねる。その絶対的な脅迫は、二人の心を完全にへし折ったようだった。「は……ははっ……! あ、ありがたき、幸せ……に、ございます……!」啓兄上が消え入りそうな声でお礼を述べ、妲己も床にお漏らしをしながら額を擦り付けて震えている。二人は命からがら、這いずるようにして会議室から退出していった。静まり返った部屋で、私は背後の窓に目をやった。これほどの恐怖を植え付けたのだ。これで二人が大人しくなってくれれば良いのだが……。愛する者を守るために暴君の泥を被る私の孤独な戦いは、これからさらに過酷さを増していく。

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