褒美の中身が狂ってる
紂王伝 第54話 箕子叔父様が静かに冷徹な苦言を終えたあと、張り詰めた沈黙を破ったのは、それまで沈黙を保っていた旦那様の声だった。「比干、箕子。……其方たちの言い分は、もっともである。寸分の狂いもない正論だ」一転して、旦那様の無表情な双眸が、隣に座る啓叔父さんと私へと向けられる。その瞳には、光の一片すら宿っていない。「――だが。私は、この二人を称賛しよう」「大王!?」激昂して立ち上がろうとする比干叔父様を、旦那様は片手を軽く挙げて制した。そして、その美しい唇の端を、歪な形へとわずかに釣り上げる。「何故か? 今回の素晴らしい『喜劇』で、この私を大いに笑わせてくれたからな。退屈な宮廷にあって、これほど悪趣味で見事な見せ物はそうそうない。ゆえに、相応の褒美を渡そう。――おい、例の物を、二人に」旦那様が傍らに控える侍従に冷たく指示を出す。重苦しい足音とともに、数人の官士たちが恭しく大きな盆を部屋へと運び込んできた。その盆の上には、まばゆいばかりの黄金や、見たこともないほど豪華な財宝が山積みにされている。……しかし。私と啓叔父さんの目が瞬時に釘付けになったのは、その煌びやかな財宝の「隙間」に転がっている、どす黒い物体だった。盆の上に、生々しく並べられた、いくつかの『生首』。それは、今回の計画で私のお手伝いをしてくれた、あの行方不明になっていた私の侍女たちだった。伯邑考を拉致して殺害した兵士たちであり、死体を切り刻んでスープに仕立てた料理人たちの――無残に刈り取られた、生首だった。まだ赤黒い血の滴る首が、虚ろな目を見開いたまま、じっと私たちを睨みつけている。「きゃあああああああああああああっ!?」頭の中が真っ白になり、私は短い悲鳴をあげて椅子のから床へと転げ落ちた。昨日まで私のすぐ傍で笑っていた女の子たちが、物言わぬ肉塊になってそこに転がっている。隣を見れば、いつも余裕たっぷりだった啓叔父さんも、顔面を土気色に変えてガタガタと歯の根が合わないほどに震えていた。「ああ、あああ……っ!」怖い、怖い、怖い。涙と鼻水が顔中をぐしゃぐしゃに汚し、恐怖のあまり股間から温かいものが漏れ出して衣服を濡らしていく。私はただ床にへたり込んだまま、声をあげて幼児のように泣き叫ぶことしかできなかった。大好きだった旦那様の優しいお顔が、もう思い出せない。目の前にいるのは、配下の命すら極上の玩具として笑い飛ばす、本物の、底知れない『暴君』だった。




