ねぇ、誰か助けてよ
紂王伝 第53話 「微子! 妲己! 貴様らは一体どれほどの愚行を犯せば気が済むのだッ!!」鼓膜が破れんばかりの凄まじい大声が、会議室の壁を震わせた。怒声をあげたのは、いつもは私に対して誰よりも優しく接してくれる、あの比干叔父様だった。額に恐ろしいほどの青筋を浮かべ、今にも掴みかかってきそうな形相で私と啓叔父さんを睨みつけている。「無実の有力諸侯の長子を、あろうことか惨殺して父親に喰らわせるなど、人の道に非ず! 我が商王朝の品格をこれ以上ないほど泥に塗る、天人共に許されざる暴挙であるぞ!!」響き渡る怒号に、私は椅子のうえで小さく身を縮め、ガタガタと身体を震わせることしかできなかった。(怖い……怖いよ……! お願い、誰か助けて……!)涙目がにじむ視界のなかで、私は必死に救いを求めるように、旦那様や箕子叔父様の方へと視線を向けた。けれど、次に口を開いた箕子叔父様の声音もまた、氷のように冷ややかなものだった。「……微子よ、お前が西方(周)の勢力拡大を憂う気持ちは、分からぬでもない。だが、このやり方はあまりにも幼稚で、凄惨にすぎる」箕子叔父様は声を荒らげることこそしなかったが、一言一言に逃げ場のない重みがあった。「これでもし天下の諸侯が真実を知れば、商への不信感は決定的なものとなる。お前たちの独断による浅はかな悪戯が、この国をどれほどの危機に陥れたか、理解しているのか?」頭の上から降り注ぐ、容赦のない非難の嵐。誰も、誰も私を庇ってくれない。いつもあんなに優しく微笑んで、私を抱きしめてくれた旦那様すらも、今はただ人形のように無表情で、底の知れない冷たい瞳で私をじっと見下ろしている。(もう嫌だ、お家に帰りたい……!)胸を締め付けるような恐怖と、誰にも味方してもらえない絶望感に押しつぶされそうになりながら、私はただ、シーツを破かんばかりの勢いで自分の衣服の裾をぎゅっと握り締めていた。




