あれ、皆お顔が怖いよ
紂王伝 第52話 悪いやつ(姫昌)へのお仕置きを大成功させた、その翌日のこと。朝起きて身の回りの世話を頼もうとすると、私の祖国(有蘇国)から一緒に付いてきてくれた十人の侍女のうち、なぜか六人も姿が見当たらなくなっていた。「ねぇ、昨日から彼女たちはどこで何をしているのかしら?」残った侍女たちに聞いてみても、誰も行き先を把握していないという。主君である私に一言の断りもなく姿を隠すなんて、お行儀が悪すぎるわ。帰ってきたら、彼女たちにもちょっとした『お仕置き』が必要かもしれない。「お休みが欲しいなら、そう言ってくれたらちゃんとあげるのにね」私は隣にいた禄父ろくふ君に、むうっと頬を膨らませて愚痴をこぼした。朝ごはんを食べ終えたあと、お庭で軽く身体を動かして運動をしていると、見慣れない足音がこちらへ近づいてきた。「妲己だっき様。陛下が会議室へお越しになるよう仰せです。私どもがご案内いたします」そう告げて頭を下げたのは、武装した女性の近衛兵たちだった。いつもと違う物々しい雰囲気に、私は少しだけ首を傾げる。「あら、そうなのね。よろしくお願いしますわ」私はにっこりと微笑んで、彼女たちのあとに付いていくことにした。歩きながら、私の胸は期待で自然と弾んでいく。(ふふ、きっと旦那様に、昨日の姫昌に対するお仕置きのことが伝わったのね! 旦那様を困らせる悪いやつをやっつけたんだから、きっとたくさん褒めてもらえるわ!)この時の私は、これから起きることをまだ何も分かっておらず、ただただ気楽にそんなことを考えていた。「陛下、妲己様をお連れいたしました」「ご苦労。入れ」重々しい扉が開き、案内された会議室へと足を踏み入れる。だが、そこにいたのは私の愛しい旦那様だけではなかった。旦那様の左右には、比干ひかん叔父様と箕子きし叔父様までが並んで座っていたのだ。(あれ……?)おかしい。旦那様も叔父様たちも、いつも私に向けてくれる優しいお顔をしていなかった。なぜか見たこともないほど、冷たくて怖い顔をしてこちらをじっと見つめている。部屋の中に流れる空気は、肌がヒリヒリするほどに張り詰めていた。「……その椅子に座りなさい」旦那様の低く冷たい声に促され、私は気圧されるようにして指定された椅子へと腰掛けた。すると今度は、後ろの扉が開いて啓叔父さん(微子啓)が会議室へと入ってきた。啓叔父さんもいつもの余裕のある笑顔は消え失せ、少し顔をこわばらせている。「微子啓、お前もそこの、妲己の隣に座れ」旦那様に言われるまま、啓叔父さんが私の隣の席へと滑り込んでくる。誰も何も喋らない、重苦しい沈黙が部屋を満たしていく。一体、これから何が始まるの――?私は両手をぎゅっと握り締めながら、ただ困惑したまま旦那様の冷徹な瞳を見つめ返していた。




