聖人を証明してみせて
紂王伝 第47話「妲様、伯邑考が謁見の間から退出したとの報告が入りました」女官からの報せを聞いた瞬間、私の胸は期待で大きく跳ね上がった。「そう、ついに来たのね。……すぐに侍女を啓叔父さんのところへ向かわせて。計画通りに動いて、って」私はクスクスと、胸の奥から湧き上がる笑いを堪えきれずに微笑んだ。大好きな旦那様に仇なす、あの忌々しい西方の君主・姫昌。そして、その息子の伯邑考。(ふふ、本当に何でもお見通しの『聖人』様だというのなら、この先の悲劇を事前に察知して、格好良く止めてみせなさいな。もし出来なければ……貴方は自分の愛しい息子を、その口で喰らうことになるのよ?)どのような結末が待っているにせよ、旦那様を困らせた悪い奴へのお仕置きとしては最高に愉快なものになるはずだ。私は身支度を整えると、宮殿の奥へと向かった。「嬴風お姉様、少し気になることがあって、これから外に出かけて参りますね」思慮深く優しい旦那様の正妻・嬴風姉さんにそう告げて、私はお出かけの許可をもらう。目指すは、姫昌が幽閉されている王都の果て――羑里。伯邑考を捕まえて、生きたまま切り刻んで、極上の料理に仕上げるなんていう野蛮で血生臭い作業は、すべて啓叔父さんの配下たちが裏で手際よくやってくれる。私がわざわざ手を汚す必要なんてどこにもない。私はただ、特等席である遠くの物陰から、その哀れな親子がどうなるのかをじっと見届けるだけでいいのだ。(もし本当に聖人で、危険を察知して料理を回避できたら、それはそれで褒めてあげる。お皿の上の肉が自分の息子だと気づいて、口にしなかったとしても、合格にしてあげてもいいわ)でも、もし。何も気づかずに、ありがたがって自分の息子の肉をバクバクと食べたなら。(その時は、思いきり大きな声で笑ってあげるんだから!)胸のすくような残酷な想像に身を焦がしながら、私は静かに馬車へと乗り込んだ。私の大好きな旦那様の治世を脅かす火種を、私なりのやり方で綺麗に消し去るために。




