茨道
紂王伝 第4話 私は、この商の国が抱える問題点を重点的に調べ上げた。物流の滞り、情報の遮断、血統による才能の埋没。それらを解消するための具体的な策を練り、宮廷の重臣や、見識のある者たちにぶつけて回った。すべては、現王である父・帝乙のため。そして、次代の王となる兄・微子のため。愛する家族が背負う国を、少しでも良くしたいという一心だった。だが――私の提案は、ことごとく却下された。「受徳王子、あなたの発想は面白い。だが、ものの道理が分かっておられぬ」「我が国には、千年の伝統がある。それを蔑ろにしては、国の根幹が揺らぎますぞ」いつも、これだ。髭を蓄えた老人たちは、したり顔で私に「伝統」の尊さをとくとくと説いた。それだけではない。廊下を歩けば、物陰から家臣たちのひそひそ話が聞こえてくる。「……また受徳王子が突飛な上奏をしたそうだ」「発想ばかりが先走って、身の程を知らん。あの王子は、国政には向いておられぬな」(なぜだ……。なぜ彼らには、問題だだ漏れのこの現状が見えないのだ!?)胸の奥から、どす黒い感情がせり上がってくるのを感じた。なぜ、目の前で民が、才能が腐っていくのを放置できる?伝統を守るために、国を滅ぼすつもりか?私は深い孤立感と苦悩に苛まれながらも、諦めることはできなかった。大改革が無理ならばと、自分にできる小さな改善を、泥をすする思いで繰り返すしかなかった。そんなある日。私は父上――帝乙に呼ばれ、拝謁の間へと足を運んだ。「受徳よ。お前が最近、妙な動きをしていると耳に入っている。何を考えている」冷徹に見える父の瞳の奥に、確かな熱があった。私はもう、自分を偽るのをやめた。胸の内にある「国への危機感」と「改革の意志」を、正直にすべて語った。静寂が場を支配する。やがて、父上は重い口を開いた。「お前の見えている景色は、おそらく正しい。だが受徳よ……その道は、果てしない茨の道ぞ。国中の人間を敵に回すやもしれん。それでも、続けるか?」試すような、あるいは憐れむような問いだった。私は一歩も引かず、父の目を真っ直ぐに見据えて答えた。「それが国のため、民のためであるならば。私は喜んで茨に身を裂かれましょう」「……そうか。ならば行くが良い」父上の一言を背に、私は一礼して部屋を退出した。その時の私は、父上の言葉の「真の意味」をまだ理解していなかった。父上が言った『国中の人間』のなかに、私が命をかけて支えようとしていた、あの最愛の兄上たちまで含まれているのだとは。




