閉塞
紂王伝 第3話 さらに各地を巡るなかで、私は身分を隠し、市井の泥にまみれて民との交流を続けた。そこで私は、驚くべき事実に直面した。文字すら読めぬ貧しい民のなかに、驚くほど優れた感性や、天性の頭脳を持つ者が紛れているのだ。ほんの少しのきっかけさえあれば、一国の政すら動かせるのではないかと思わせるほどの逸材が、確かにそこにいた。だが――彼らがその才能を開花させることは、決してない。「おい、ぐずぐずするな。俺たちの先祖は代々、この畑を耕してきたんだ。お前も死ぬまで鍬を握るんだよ」この国では、血統こそがすべてだ。民はみな、親から代々の仕事を受け継ぎ、ただそれだけを繰り返して生きている。(……無駄だ。あまりにも、残酷なほどに無駄だ)私は胸の内で、激しい憤りを感じていた。個人の適正など、そこには一切関係がない。職人の才能を持つ者が畑を耕し、知恵のある者が重い石を運んでいる。なぜなら、それ以外の「仕事」が、この国には存在しないからだ。特に悲惨なのは、長男以外の息子たちだった。家を継げぬ次男や三男は、ただ何かが起きたとき――病や戦争で長男が死んだときの「保険」として、家業の手伝いをさせられているに過ぎない。彼らは己の未来を描くことすら許されず、ただ消費されていく。(こんな歪んだ仕組みのままで、どうして国を、民を豊かにできようか)開墾をして畑を増やすだけでは、もう限界がある。必要なのは、血筋に関係なく、才能ある者が牙を剥くことができる場所だ。「国が、仕事を創らねばならない」天から与えられた適正に応じて、誰もが働ける新しい仕組み。それさえあれば、この国は今の何倍も強く、豊かになれる。揺るぎない決心とともに、私は拳を強く握りしめた。兄上たちが治める未来のために、私はこの腐った平穏を壊す戦いへと身を投じる。――能力ある者を抜擢し、血統という名の特権を叩き潰す。のちに諸侯や貴族たちから「王朝を滅ぼした悪逆の法」と激しく呪われることになる大改革の種火が、この時、私の胸に灯った。




