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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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忠言

紂王伝 第34話 国軍と親衛隊のすべてを統べる我が商の最高名将であり、私の義父でもある飛廉が、戦務の合間に暇を見つけては私の邸宅へと足を運ぶようになっていた。目的は、十歳になった私の愛息・禄父の武芸の稽古をつけるためだ。「これは陛下、お邪魔させていただいております。しかし驚きましたな。禄父殿は実に筋が良い。馬術も武具の扱いも、まだ十歳とは思えぬほどの腕前でございますぞ」稽古場の砂埃のなかで、飛廉はいつも通り、王たる私に対して深く頭を下げて畏まってみせた。「飛廉義父上。他人の目が無い時は、そこまで畏まられると私が困ります。どうか楽にしてください」私は苦笑しながら願い出た。「ははは、普段からの付き合い方というものも、王の威厳を保つためには大切ですぞ、陛下」「私たちは、家族ではないですか」私が真っ直ぐにそう返すと、大将軍は一瞬だけ目を見開き、それから実の父親のような温かい微笑みを私に返してくれた。私たちは並んで腰掛け、心地よい雑談を交わしながら、木剣を振るう我が子の凛々しい訓練の様子を見学していた。だが――やはり、天下の軍権を握る男との時間は、ただの穏やかな日常だけでは終わらなかった。「……ところで陛下。西方の『周』ですが、我が商からの度重なる警告を完全に無視し、今なお周辺へ向けて急速に勢力を拡大しているようでございます」飛廉の低い声が、稽古場に流れる平穏な空気を一瞬で引き締めた。「一度、周の君主(姫昌)を王都・朝歌へと召喚し、面を合わせて真意を質してみてはいかがですかな?」遠方の諸侯を直接、王都へ呼び出すか――。義父上の具体的な提案に、私の脳裏で一為政者としての冷徹な計算が回り始めた。確かに、西方の土地は耕作地も多く、我が商の国力を支える実り豊かな大地だ。だが、その周のさらに西側には、獰猛な騎馬民族が常に跋扈している。国境の安定を保つためには、どうしても西方の諸侯と連携し、軍備を整えねばならないことは痛いほど理解していた。しかし、周のこれ以上の独走を放置しておくわけにもいかない。(……やむを得ん。これもまた、比干や箕子たち重鎮を集めて協議せねばならんな)せっかく最愛の息子の成長を眺めて、心の底から楽しい時間を過ごしていたというのに。容赦なく重い政務の話を振ってきた仕事熱心な義父上に対して、私は顔を背け、内心で子供のようにべっと舌を出した。「分かった。前向きに検討しよう」私はため息混じりにそう答えると、夕日に向かって必死に木剣を振り下ろす禄父の姿を、愛おしそうに見つめ直した。この愛する家族の温もりを、そして商の繁栄を脅かそうとする者があるならば、私は王として、その全てを冷徹に刈り取らねばならない。西の周という名の巨大な火種が、すぐ目の前まで迫ってきていることを、私は強く実感していた。

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