私は不満なんです
紂王伝 第32話 不器用な実り私が朝歌の宮廷に来てから、早くも一年の歳月が流れた。日々の生活のなかで、最近になってようやく少しずつ分かってきたことがある。私の夫であり、この国の王である辛様は、ただ単に感情を表に出すのが酷く不器用な男なのだということだ。今年、私は十歳になった。その記念として、辛様がわざわざ北方を治める叔父上の箕子様に頼み込んで、現地の豊かな実りを集めてくれたのだという。その事実を、後から遊びに来た箕子様自身の口から直接手渡されるようにして聞かされた時は、驚きで胸が小さく跳ねた。後日、私邸には言葉通り、色とりどりの瑞々しい果実や立派な栗が山のように届けられた。「北方の土方が朝貢してくれてな。せっかくだ、皆で頂こうか」辛様はいつものように淡々とした口調でそう言ったけれど、その果実の山が私に向けられたものであることは分かっていた。家族みんなで囲んだ果実は、甘かったり、少し酸っぱかったりと、どれも驚くほどに美味だった。故郷を離れて以来、初めて味わうような極上の大地の恵みに、私は夢中になって舌鼓を打った。――けれど、美味しい果実をお腹いっぱい食べても、私の胸のなかには少しだけ不満が残っていた。だって、私は一応、辛様の奥さん……になるはずの人だ。それなのに、辛様が私を見つめる目つきは、我が子である禄父君を見るのと全く同じなのだ。正室である嬴風姉さんに向けられる、大人の女性に対するそれとは明らかに違っていた。(私は、この王家に養子に来たわけじゃないのですからね……!)子供扱いされているようなもどかしさに耐えかねて、後でこっそり風姉さんにその胸の内を相談してみると、お姉様はすべてを見透かしたように楽しげに声を上げて笑った。王様のあまりの不器用さと、自分が置かれた微妙な立ち位置に、私は美味しかったはずの果実の味を思い出しながら、少しだけ頬を膨らませていた。




