果実
紂王伝 第31話 北方の地を任せている箕子から、待ち望んでいた定期の朝貢――すなわち、北方民族である「土方」との大規模な交易物資が朝歌へと届いた。届けられた荷を開ければ、そこには見事な栗や、色とりどりの瑞々しい果実が山のように積まれていた。内陸や北方において、我が商がもたらす『塩』の価値はやはり絶対的だ。良質な塩を媒介としたことで、遠方の異民族からこれほどまでに豊かな大地の恵みを、極めて有利な条件で引き出すことができたのだ。私は、届いた膨大な果実の山を前に、すぐさま公平な分配を命じた。「半分は民間の市場へ流して売却せよ。四分の一は天下の諸侯たちへ下賜する。そして、残りの四分の一を、この宮廷の家臣たちで分け合え」富を一部の特権階級だけで独占しては、物流の循環は止まってしまう。広く天下に巡らせてこそ、王の支配者としての真の価値が生まれるのだ。朝議の場には、果実を頬張る家臣たちの「なんと瑞々しく、芳醇な味わいか」という歓声と、こぼれんばかりの笑顔が満ち溢れていた。一人一人にかなりの量が手渡され、宮廷全体がこれまでにない温かな空気に包まれる。もちろん、私の分はすぐに奥の館へと運んでもらった。風も禄父も、そして妲己も、初めて見る北方の果実の甘さに、目を輝かせて大喜びしてくれた。家族のその笑顔を見つめながら、私は胸の中で、静かに燃えるような誓いを新たにしていた。(かような豊かな大地の恵みを、商のすべての民が、いつでも、どこでも手に入れられるようにすること――。それこそが、王である私の果たすべき真の役目だ)我が商の国内だけではない。崇国をはじめとする近隣の諸国、さらには今はまだ形式的な臣従を誓わせたに過ぎない沿岸部の宿沙国のような遠方の地へも、この豊かさの循環を完璧に波及させなければならない。そのためには、何よりもさらなる街道の整備、そして揺るぎない「巨大物流網」の構築が必要不可欠だ。これらを完全に成し遂げるには、これから何十年、下手をすれば百年以上の歳月が掛かるだろう。私の代だけでは終わらない、果てしない道だ。だが、例えどれほどの時が流れようとも、私はこの確信を胸に、一歩ずつでも前へ進み続ける。無邪気に果実を味わう家族の笑い声を背に、私は遠く北方の空を見つめ、次代の歴史へと繋がる大いなる設計図を、心の奥底でより強固に描き直していた。




