宿沙国
紂王伝 第27話 東方遠征の矛先は、我が商に新たなる莫大な富をもたらした。山東沿岸部において、古くから製塩を司ってきた部族――鹵族の治める「宿沙国」が、我が商との交易を申し出てきたのだ。私は彼らに『伯』の爵位を与え、彼らが我が商に「内服」したと宮廷へ発表し、役人を派遣して、今後は塩を中心に朝貢させることを取り決めた。――だが、これらはあくまでも宮廷と、私自身の面子を保つための飾りに過ぎない。実態は、彼らは我が商に全然従っておらず、ただの対等な交流と、塩の獲得を目的とした大規模な貿易に過ぎなかった。完全に支配下に置くためには、更なる侵攻を待たねばならない。しかし、内陸の重要な塩湖である『解池』以外から、これほど大量の塩を安定して獲得できるルートを開いたことは、我が商のさらなる大発展を約束するものであった。「歩みを止めるな。この勝利を、次なる覇道への礎とする」私はすぐさま、新たなる二つの大事業を布告した。第一に、形だけでも臣従の礼をとった有蘇国――『冀州』までの大街道を完璧に整備すること。これは次なる東方遠征を見据え、軍が迅速に行軍するための兵站基地となる『駅』や、兵たちの『宿舎』を重点的に建設させる、事実上の軍事道路であった。第二に、先の酷い日照りや干ばつといった天災にいつでも対応できるよう、王都・朝歌の近郊に、穀物や物資を大量に備蓄するための巨大な倉庫群を建設させることだ。――その巨大な国家備蓄庫の建設計画を、私は『鹿台』と名付けた。これらの驚天動地の大公共事業により、国内には十分すぎるほどの「仕事(雇用)」が創出された。それどころか、人が増え続けているはずの我が商において、いよいよ「人手が足りない」と現場から悲鳴が上がるほどの、凄ましき経済の爆発が起きていた。人手不足を解消し、同時に遠征軍の維持で圧迫された比干の予算を抑えるため、私は新たなる王法を定めた。――農業従事者に対し、農閑期の二ヶ月間に限って、国家のインフラ建設への労役を課す。その間、彼らには腹一杯の食料と、ほんのわずかな対価(塩塊や貝貨)を支払うだけで済ませた。農民にとっては仕事のない時期に確実に食い扶持と小遣いを得られる救済措置であり、国にとっては人手不足を補いながら予算を大幅に浮かせる、これ以上ない合理的な解決策であった。(……良し。物資、金、人。すべてが私の手の中で回っている)鹿台の設計図を見つめながら、私は確かな手応えを感じていた。これほどまでに豊かになり、強大になっていく我が商王朝。しかし、民を救うために国が富を積み上げ、中央集権の権力を完璧に固めていく。




