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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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冀州候

紂王伝 第23話 東方遠征の最前線で激しく攻め込まれていた有蘇国が、ついに全面的な臣従を申し出てきた。宮廷に届けられた莫大な貢物のなかに、天下にその美名が轟く美姫――『妲己』という名の少女が含まれていた。彼女は十名の側仕えを伴い、王都・朝歌の私の元へと連れてこられたのだ。玉座の前で平伏する彼女を一目見た瞬間、私の胸の内を占めたのは、どうしようもないほどの憐憫であった。(ああ……なんと、なんと悲惨な運命か)まだ私の愛息・禄父とさほど変わらぬ、ほんの少し年上なだけの幼い少女なのだ。それなのに、国を守るための身代わりとして、侵略者であるこの私の元へ、妾――すなわち「人質」として嫁がされることになった。その心細さは、想像するに余りある。「陛下……。この度は、私のような者を温かく受け入れてくださり、誠にありがとうございます。これからは誠心誠意、陛下のために尽くさせていただきます」震える声を懸命に張り上げ、必死に礼儀正しく挨拶をしてくる少女。「うむ。よくぞ遠方より、余の元へと来てくれた。心から歓迎しよう」私は玉座から、これまでにないほど柔らかな声を彼女へと掛けた。「皆への正式な紹介は後日とする。まずは長旅の疲れを落とすため、今日のところは奥の館でゆっくりと身体を休めるが良い」私は優しくそう告げると、丁重に彼女を案内するよう女官たちに命じた。退出していく彼女の小さな背中を眺めながら、私は考えを巡らせていた。まずは、思慮深く優しい私の妻・嬴風に、あの哀れな少女の世話を頼むのが良いだろう。禄父とも歳が近い。もしあの子が我が商の宮廷に馴染み、その天性の美貌を健やかに開花させたなら、いずれは一端の諸侯へ嫁がせるなど、あの子自身の幸福な「将来」を考えてやるのも一つの選択肢だ。そんな優しい思案を巡らせながらも、王としての冷徹な政治的返礼を忘れるわけにはいかなかった。私は有蘇国の使者に対し、臣従の証として、我が商の無敵の象徴である「戦車」と「青銅製の武具」の数々。そして、彼らの国に『冀州侯』という、周辺を統括する絶大な地位を下賜することを厳かに宣言した、あの哀れな少女が少しでも過ごしやすいように心の中で祈り。

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