親衛隊
紂王伝 第22話 盾商容が起こした叛逆の余波を受け、私は東方遠征の軍を一旦停止させる決断を下した。前線への補給や莫大な予算のやりくりに文字通り血を吐くような苦労をしていた宰相・比干は、この決定に分かりやすく安堵の表情を浮かべていた。(本当に……苦労をかけてすまない、叔父上)公の場では冷たく突き放していても、内心にある感謝の念は尽きない。後で人目を忍んで、しっかりと感謝を伝えに行こう。さて、今回の叛逆劇で最大の武功を挙げたのは、間違いなく若き将軍・悪来であった。私は朝議にて悪来へ莫大な褒美を下賜すると同時に、新たなる軍の組織化を宣言した。悪来を長とし、軍部の名門・嬴氏の精鋭を中心とした、私の直属軍――『親衛隊』の発足である。その主たる任務は、宮廷内の警備を受け持つ禁軍としての役割。そして、嬴氏伝来の強靭な騎馬を駆使し、国中に張り巡らされた街道を駆けて情報を届ける「伝令」としての役割。だが、その真の姿は――王である私の意志を邪魔する者を容赦なく叩き潰す、帝辛直営の冷徹な「暴力装置」に他ならなかった。悪来の父親であり、我が商の最高名将である飛廉には、引き続きこの親衛隊と正規軍を率いる将軍の筆頭(総大将)として睨みを利かせてもらう。「禁軍、あるいは私兵という名では、宮廷の老人どもが『王が特権を脅かす刃を研いでいる』と過剰に警戒して騒ぎ出しますからな。……『親衛隊』。王の身辺を警護するための盾、という名目はじつに都合が良い」悪来は、その筋骨隆々の巨体に似合わぬ狡猾な笑みを浮かべて私の意図を察していた。その通りだ。ただの護衛部隊という名目で牙を隠しておけば、古い貴族たちも油断する。彼らが私の改革を邪魔しようと不穏な動きを見せたその瞬間、この親衛隊という名の暴力装置を解き放ち、その領地と特権を根こそぎ噛み千切ってやればいい。これで、血筋だけにふんぞり返る寄生虫どもを排除する準備はすべて整った。「悪来よ。これより私の影となり、この商の障壁をすべて噛み殺せ」「ガハハ! 御意にございます、我が王よ!」頼もしい義兄弟が盾と矛を得て、私の玉座はさらなる冷徹な輝きを帯び始めていた。




