叛逆
紂王伝 第20話 東方遠征が始まって一年。侵略戦争というものは、私の想像以上に莫大な物資と予算を貪り食っていった。宮廷では、国政の金を預かる宰相・比干が、連日のように悲鳴を上げていた。「陛下、東方からの度重なる増予算の要求により、国庫はいまや底を突きかけております! これ以上の遠征は不可能です!」(すまない、叔父上……。誰よりも苦労をかけているのは分かっている……)私は内心で深く謝罪していた。だが、群臣の並ぶ朝議の席で、王である私が弱音を見せるわけにはいかない。私は玉座から、わざと冷酷極まる視線を比干へと向け、冷ややかに言い放った。「比干よ。足りぬ足りぬと、駄々をこねる童でもあるまい。知恵を絞って金を捻出せぬか。臨時の増税、あるいは周辺の諸侯どもに対して朝貢を促すなど、手段は幾らでもあろう。そのための全権を貴様に与えてあるのだぞ?」私の冷徹な言葉に、比干は悔しさに唇を噛み締め、黙り込むしかなかった。後で人払いをした後、叔父上の部屋で二人きりになったら、頭を下げて心から謝ろう。王としての体面を守るための芝居とはいえ、最愛の身内を傷つけるのは、本当に面倒で、そして胸が痛むものだった。だが、私たちがそんな身内のすれ違いを演じている隙を突き――我が商の歴史を揺るがす大事件が勃発した。神職勢力の長であり、宮廷の重鎮であった商容が、ついに私の統治に対して「反乱」を起こしたのだ。「神事を蔑ろにし、血統ある家臣の領地を奪い、民衆に重税を課し、今や無謀な侵略戦争に耽って万民を塗炭の苦しみに落とした暴君・帝辛を退位させよ! 我らが商を正しき姿へと戻すのだ!」商容は一部の不満派の諸侯をも味方に引き入れ、旧来の国軍を主体とした三万という大軍勢を組織し、王都・朝歌へと向かって怒濤の勢いで進軍してきた。迎え撃つ朝歌近郊の我が正規軍は、わずか一万。この絶体絶命の危機に、私は軍部の名門・嬴氏の若き傑物――飛廉の息子で義弟である「悪来」を将軍に任命し、迎撃を命じた。「ガハハハ! 陛下、数などただの飾りにございます! 常備軍の真の戦の作法を、あの老人どもに教えて差し上げましょう!」数では三分の一。しかし、蓋を開けてみれば、それは戦いと呼ぶのも生緩いほどの「一方的な蹂躙」であった。毎日泥にまみれて練兵を重ねてきた正規軍の圧倒的な練度。そして、最新鋭の「戦車」と、国力で作り上げた無敵の「青銅製の武具」。それらの圧倒的な暴力の前に、数だけを集めた商容の烏合の衆は、一瞬にして消し飛んだ。戦場に鉄と血の嵐を巻き起こした悪来の手によって、首謀者である商容は瞬く間に捕縛され、我が商を揺るがした大反乱は、驚くほどの短期間で完全に鎮圧された。玉座に届けられた商容捕縛の報告書を見つめながら、私は冷たく微笑んだ。私の成した改革のすべてを「暴政」と呼び、牙を剥いてきた古い世界。それを力尽くで粉砕した我が手には、いま、誰の手にも負えないほどの強大な、そしてあまりにも孤独な絶対権力が握られていた




