侵略戦争
紂王伝 第19話 膨れ上がる人口と、それに伴う圧倒的な税収の増加は、我が商の「武」をも完全に作り変えた。私は従来の、農繁期には畑を耕し戦時にのみ集められる臨時の兵たちを「国軍」と位置づけ、彼らには国境の警備という守りの役割を任せた。それとは別に、私が予算を惜しみなく投入して組織したのが、戦うことのみを本分とする国専任の常備軍――『正規軍』である。人頭税によって実家を離れたものの、農業の土地が足りずに溢れていた若者たちにとって、この正規軍は最高の雇用の受け皿となった。他国からの移民には極力、開墾や建築の仕事を割り振り、元からいる商の民を優先してこの強靭な兵へと仕立て上げていったのだ。私は、国内の「七大都市」の近郊に、それぞれ巨大な拠点を建設させた。それは単なる砦ではない。兵舎、武具や食料を保管する巨大な倉庫群、馬舎、そして広大な演習場や馬を放牧するための土地までを含めた、さながら一つの「軍事都市」であった。毎日、大地を揺るがすような怒号とともに、最先端の武具を揃えた若者たちが練兵に励む。彼らへの給与や食料、武具の維持費は、回り始めた経済の富がすべて賄って余りある。気づけば、我が商の正規軍は五万人を超える巨大な暴力へと成長していた。(――時は満ちた)私は玉座の上で、冷徹に前線を見据えた。国内の土地はもう限界だ。ならば、外の土地を奪い取るしかない。私は五万の正規軍のうち、選りすぐりの三万を動員し、東の国境を越えて軍を進めることを命じた。綺麗事を言うつもりは毛頭ない。これは純然たる「侵略戦争」である。私にとって何よりも大事なのは、我が商の国であり、商の民の未来だ。我が民をさらに豊かにするためならば、他国の民には、その踏み台としての犠牲になってもらう。この遠征の最終目標は、東の果て――誰も見たことのない、あの大いなる「海」へと到達することだ。進軍を告げる角笛の音が、朝歌の天へと高く響き渡る。「さあ、始めよう。――戦争を」押し寄せる黒い鉄の波。のちに歴史の表舞台で、周辺諸国から「諸悪の権化」と恐れ呪われることになる、商王朝最大の東方遠征が、ついにその血塗られた幕を開けた。




