人頭税
紂王伝 第17話 人口は国力なり市場に通貨が回り始めたことで、我が商の国力は恐ろしい速度で膨れ上がっていった。上がってくる税収が増えれば、国が新たに雇える平民の数もさらに増えてゆく。市井の暮らしを見て回れば、そこには私が戴冠した直後とは比べるべくもない、豊かな光景が広がっていた。今までは、義務である税を払い、村の中で物々交換をする最低限の分しか生産しなかった民たちが、「作れば作るだけ、塩の塊や貝貨に換えることができる」と知り、こぞって生産に励み始めたのだ。物品が激しく循環し、人々はさらに豊かな暮らしを欲して汗を流す。この大いなる循環が、商を内側から劇的に作り変えつつあった。ただし――農作物だけは、商業のように簡単にはいかない。土地には限りがあり、ただ働けと言っても畑が増えるわけではないからだ。「ならば、国が動くのみだ」私は余りある予算を惜しみなく投入し、新しく雇い入れた大量の労働者たちを広大な未開の地の「開墾」へと充てた。それと同時に、私は農家に対して新たなる税を課した。――『人頭税』である。かつて、農家において長男以外の次男や三男は、ただの「保険」として家業の手伝いをさせられ、己の未来を描くことも許されずに飼い殺されていた。女性もまた、家に縛られるしかなかった。だが、一人頭に税が掛かるとなれば、家長は次男や女性をいつまでも家に囲っておくわけにはいかなくなる。否応なしに、彼らの「自立」を促すことになるのだ。私は、開墾した膨大な新しい土地を、彼らへ格安で分け与えた。家に居場所のなかった次男たちや女性が、こぞって国から土地を買い、新たな職(農業)を得て独立していく。土地が安定すれば、いずれはそこから莫大な農産物の税収が返ってくる。初期の開墾にかかった赤字など、今の有り余る予算で十分に補って余りあるものだった。この画期的な政策は、私が予想していた以上の素晴らしい波及効果を生み出した。親の元を離れ、自立した若者たちが次々と新たな家庭を築き、次代を担う子供たちが爆発的に増え始めたのだ。さらに、この「商に赴けば、平民でも土地を貰えて豊かになれる」という噂が近隣の諸国へと知れ渡ると、国境を越えて我が国への『移民』が激しく流入し始めた。人口は、国力そのものだ。かつて泥を這うようにして市井を巡り、民の閉塞感に憤っていた若き日の私の理想が、いま、最高の形で現実のものとなろうとしていた。




