お披露目
紂王伝
第16話 月日は流れ、私の愛息たる禄父が五歳を迎えた。天下に次代の誕生を盛大に示す、「お披露目」の時が訪れたのだ。ちょうどこの頃、朝歌の周辺は酷い日照りに見舞われ、民たちは日々の生活に酷く苦労していた。私はこのお披露目の慶事にかこつけて、広場に集まった民衆へ酒や牛羊の肉を大盤振る舞いした。それだけではない。王家の蔵を開けさせ、大量の穀物を各家庭への「お土産」として無償で配給することを決定したのだ。日照りに苦しむ民を、お祝いの形を借りて公然と救済する。王として当然の慈悲であり、為政者としての合理的な判断だった。しかし――この配給すらも、古い家臣たちの批判の対象になるとは、ついぞ思いもしなかった。「陛下、過去の王子のお披露目において、かような配給の前例はございませぬ。それよりも、神への生贄の数が圧倒的に足りませんな。日照りが続くのは神の怒り。もっと血を捧げねば!」また、これだ。神、前例、伝統。引きつった笑みを浮かべる老人たちを前に、私の胸の中で、何かが音を立てて激しく弾け飛んだ。(――貴様ら貴族も、民衆が汗水垂らしてあげる税収を頼りにして生きているのではないのか!?)何故、その土台である民を労わろうとしない?何故、民をただの消費される生贄としか見ないのだ?私には、彼らの浅ましさがどうしても理解できなかった。いや、もう理解する気も失せた。私は、玉座の上で冷徹に「決断」した。己の血筋を誇るのは、勝手にすればいい。だが、そこに国を背負う能力も、民を守る責任も伴わない奴。目の前で民が飢えているというのに、前例を盾にして労おうともしない奴。そんな寄生虫どもは――極論、この我が商王朝への「反逆者」に他ならない。国を内側から腐らせる反逆者なのだ。ならば――王である私が、その領地と特権を力尽くで取り上げたとしても、何の問題もあるまい?「……ふっ、そうだな。実によい道理だ」私は思わず、独りごとのように低く笑った。周囲の家臣たちは、私の笑みの意味が分からず、ただ不気味そうに首をすくめている。お前たちがそれほど伝統という名の特権にしがみつきたいのなら、お前たちごと、その領地を根こそぎ奪い取ってやろう。のちに天下の諸侯たちから「牙を剥いた最悪の暴君」として激しく呪われ、恐れられることになる苛烈な「領地没収」の刃が、この時、私の手のなかで完全に完成した。




