↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/132

帰奥

紂王伝 第129話 重鎮たちとの戦後処理の方針の擦り合わせがあらかた終わり、私は久々に家族の待つ奥(後宮)へと帰ることにした。大まかな方針は固まった。あとは数日後、子期(しき)が追撃戦から朝歌(ちょうか)へと帰還したのちに朝議を開いて正式決定を下すだけだ。それまでの間は、ここ最近の怒濤の政務から離れて、多少はゆっくりと過ごせるだろう。私の邸宅へと足を踏み入れると、懐かしい温もりが鼻腔をくすぐった。「おかえりなさいませ、陛下。ご無事で何よりにございます。……それと、此度の戦勝、誠におめでとうございます」正妻の風(えいふう)が、家族を代表して凛とした、けれどどこまでも優しい声で出迎えてくれた。その背後からは、やはり私の身をひどく心配していたのだろう、王太子の禄父(ろくふ)と最愛の側室の妲己(だっき)の二人が、我先にと勢いよく私の身体へと抱きついてきた。まあ、いくら都の近場での防衛戦であったとはいえ、王である私自身が武器を手にして最前線へと赴いたのだ。彼らを過度に不安にさせてしまったのも仕方のないこと。「お前たち、ただいま。留守をよく守ってくれたな」私は愛おしさを噛み締めながら、二人の小さな身体を順番にひょいと抱え上げ、己の両肩へと乗せてやった。そのまま、みんなで並んで風の屋敷へと向かって歩き出す。うん……? 普段ならば、もう子供ではないと、禄父が真っ赤になって照れながら文句を言うはずなのだが。今日の息子は、私の肩の上で妙に大人しく収まっているな。ふふ……。生意気な口を利いていても、やはり父親が戦場へ行ってしまうのは寂しかったと見える。背中に受けていた暗傷の微かな痛みなど、この温もりの前には霧散していく。張り詰めていた心が、内側から穏やかに晴れていくのを確かに実感していた。隣を歩く風も、どこか心底ほっとしたような柔らかな表情を浮かべてくれている。それが何よりも嬉しかった。傅華(ふか)の突然の自死以来、どこか陰惨で暗い空気が澱んでいた後宮だったが。久々に、その重苦しい帳がすうっと軽くなったような気がした。私のこの温もりが届いてくれていることを願いながら。私は愛しい家族の手をしっかりと握り締め、ひとときの平穏を貪るように、温かい光の満ちる屋敷の中へと進んでゆくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。