廷議
紂王伝 第128話 九国に対する戦後対応を定めるべく、帰還後すぐに比干叔父上ら重鎮を集めての協議を開始した。「北西の盾たる九国は残したい。あまりに苛烈な方針をとり、九国の過度な弱体化や、商からの完全な離反を招く事態は絶対に避けたいのだ。……しかし、他国に手を出さず、不意の奇襲もかけず正面から侵攻してきたとはいえ、国を挙げての反逆を容易く許すわけにもいかぬ。諸卿の意見や、具体的な方針、忌憚なく聞かせてほしい」私がそう問いかけると、宰相の比干叔父上たちも大局を見据える方針そのものには賛同してくれた。しかし、やはり朝廷を預かる身としての現実的な難題を突きつけてきた。「先代九侯の暗殺未遂、そして今回の反逆。これらを軽い罪と報復だけで済ませてしまえば、我が商の群臣、周辺の諸侯、さらには四方の蛮夷どもに、商王朝の威信が軽んじられてしまわれます。最低限、こちらから軍勢を本国へと派遣しての『城下の盟』を求めねばなりませぬ。新九侯の交代、そして財宝などによる莫大な賠償を。それらが必要不可欠にございます」
比干の提示した策は、厳格でありながらも極めて現実的なものであった。場に集った者たちもその的確さに深く納得し、議論は異論なくその方針へと集束していく。最終的な決議は朝議の場に委ねられるものの、大まかな方針はここに定まった。九国への遠征に投入される兵力は、正規軍二万。しかし、標的との距離があまりに離れている。この行軍を支え切るためには、後方支援にも同規模である二万の軍勢を充てる必要があった。指揮官の選定については、現在追撃戦に赴いている子期の帰還を待って、子戞を総大将として派遣することが内定する。同時に、唐や蘇に対しては、不必要な動揺を避けるため、事前に使者を送って通告しておく方針がとられた。これはあくまで九国を討つための遠征軍であるという大義名分の明示である。さらに、仮にも相手は周辺の諸侯を従える「伯」の任にある実力者。朝廷の威信を保ちつつ、理を尽くした交渉を行う必要がある。そこで、大使として文官の尤渾を派遣することが決定した。相手を必要以上に追い詰め、無用な反発から周辺諸侯を巻き込んだ泥沼の戦いに発展させぬよう、比干らは尤渾に対し、あくまで文官としての節度ある交渉に徹するよう言い含める。王朝の意図を正しく汲み取り、大局を見て立ち回れる有能な実務派であるからこそ、この繊細な副使の任が託されたのであった。




