自分の罪から、逃げるな私
紂王伝 第120話 大好きな旦那様が、九侯に刺されてしまった。輿入れしてきた傅華お姉様が、屋敷の寝室で自ら命を絶ってしまったことへの、実の父親としての命がけの復讐。そして、その傅華お姉様が絶望して首を吊った本当の理由は、かつて私が、何も考えずに西伯の嫡男・伯邑考を殺害してしまったから。うう……。全部、元を正せば私が、私が犯してしまった罪が始まりだったのだ。それなのに、後宮の誰も、この朝廷の誰も、私のことを責めようとはしない。「お前のせいで、こんな大惨事になったのだぞ」と、誰かが私を激しく罵り、叩きのめしてくれれば、私の心はどんなにか楽になれただろうか。だけど、そんなことを望むなんて、それ自体が私のただの『甘え』だ。(逃げるな、妲己……! 自分が引き起こした因果から、決して目を背けてはダメ……!)私はきつく拳を握り締め、胸を引き裂くような罪悪感と必死に戦っていた。しかし、そんな激しい苦悩とは裏腹に、皮肉な現実が私を包み込む。背中に受けた怪我の治療という大義名分のおかげで、旦那様はそれからの数日間、政務を叔父上たちに預けて、ずっと奥(後宮)に居てくれたのだ。相変わらず無愛想でぶっきらぼうな旦那様。けれど、私や風お姉様を気遣ってくれるその不器用な態度からは、言葉にできないほどの深い優しさが溢れていた。不謹慎だ。自分が犯した罪のせいで、お姉様も先代九侯も死んでしまったというのに。それでも、旦那様とこうしてずっと一緒にいられる日々に、私の心は、ほんのちょっとだけ、幸せを感じてしまっていた。だが、そのささやかな幸せすらも、新しい九国の主が冷酷に打ち砕く。先代の跡を継いだ新たな九侯が、二万もの大軍を組織し、この朝歌に向けてまっすぐ進軍を開始したというのだ。旦那様がもたらしてくれた、私たちの穏やかで温かい日々は、これで完全に終わりを告げられた。そして――私自身の身体にも、もう一つのタイムリミットが容赦なく迫っていた。数えてみれば、そろそろ二ヶ月。あの男――あの微子啓の元へ行かねばならない時期がやってきたのだ。




