動揺
紂王伝 第117話 背中に受けた傷の治療を言い訳にして、私はそれからの数日間、完全に奥(後宮)へと引きこもっていた。傅華の突然の自死、そして私が暗殺されかけ負傷したという衝撃の報せに、風(嬴風)も妲己も、禄父もひどく動揺し、深いショックを受けていた。私はそんな最愛の家族に寄り添い、互いの温もりを確かめ合うように、穏やかで平穏な時間を過ごしていた。だが、その静寂は不意に破られる。私の義弟であり、親衛隊を率いる悪来が、血相を変えて奥の寝所へと飛び込んできたのだ。「陛下! 北西の唐国より、緊急の報せが届きました。――九国が、我が商へ向けて大軍を動かし、進軍を開始したとのことです! なお、唐国側は『これは蛮族の侵攻ではないので静観する』とし、今回の事態を完全に静観する構えを見せております!」「……馬鹿な」悪来の報告を聞いた瞬間、私の脳裏に激しい怒りと困惑が走った。九侯には、私が下したあの最大限の配慮と譲歩の意図が全く届いていなかったというのか。「――して、九国の軍勢の数は?」「およそ二万と報告されております!」「……よかろう。ならば、私も自ら戦場へと出る。悪来、今すぐ五千の親衛隊を準備させておけ。それに加え、朝歌の正規軍四万を直ちに出撃させる。ここで我が商の圧倒的な武の力を、天下の諸侯へ見せつけてやる」「陛下、お待ちください! 王であるあなたが自ら動くなど、流石に軽率に過ぎます! それに、この規模の出兵となれば、まずは宰相の叔父上たちへの事前の説明と、朝廷の正式な認可を仰がねば――」「叔父上たちのところへは、今から私が直接行く。お前も付いてこい」私は悪来の制止を力強い言葉で撥ね退けると、矢継ぎ早に周囲の家臣たちへ指示を飛ばし、最後に心配そうな表情を浮かべる正妻へと視線を向けた。「風。奥のことは、すべてお前に頼んだぞ」「はい……。どうか、御無事で、旦那様」私のために用意された、ほんの僅かな平穏の時間は、これで完全に終わりを告げた。丁重な葬儀と無罪放免の慈悲を以て応えたというのに、それを仇で返し、最愛の家族をとの時間を潰した九国の愚か者ども。我が譲歩を弱腰と見縊り、この平穏を叩き潰した対価――その身を以て、たっぷりと支払わせてやるわ




