我儘
紂王伝 第115話 私は、反逆者として倒れ伏した九侯の遺骸を侮辱することなく、丁重に扱うよう命じた。そして、邸内に謹慎させていた四十九名の九国の侍女たちを全員無罪放免とし、主君の遺体と共に九国へと送り届けるよう指示を出した。「陛下! いかに九侯に同情の余地があろうとも、王を急襲した大逆人をそのように厚遇するなど、流石に商の威信に関わります!」「あまりにも弱腰に過ぎる処置! 周囲の諸侯への示しがつきませぬ!」当然ながら、朝廷内からは怒号に似た反対意見が続出いた。だが、国家の法を犯した反逆者とはいえ、此度の傅華の自死を巡る経緯を考えれば、彼は一人の親として、名門の主としての誇りと意地を懸けて、死を百も承知で私へと挑んできたのだ。その命を賭した執念と行動を、私は不思議と不快には思えなかった。「陛下。此度の処置、流石に寛大に過ぎます。商の法に則り、九侯とその家臣らは悉く晒し首とし、残された侍女たちにも即座に死を賜るべきです。さもなくば、王の権威は地に落ちましょうぞ」いつもは私の良き理解者である宰相・比干叔父上までもが、今回ばかりはいつにない厳しい口調で、真っ当な進言を突きつけてきた。本当にその通りだ。叔父上の言うことには、一言の反論の余地も無い。これが統治者としてあるべき、非の打ち所のない正論であった。「――比干よ。これは既に、私が下した決定だ」私はこれ以上の議論を拒絶するように、正論を繰り出す比干叔父上に背を向けた。「此度の弱腰とも言える処置を見て、諸侯たちが我が商を見縊り、愚かな反逆の行動に移るというのなら、それでも構わん。その時は――ただ、商の圧倒的な武を以て、骨ごと叩き潰すまでのことだ」強硬な言葉を遺し、私は叔父上の反論を遮るように執務室の出口へと歩き出した。「九侯から受けた、背中の傷の治療もある。私は少しの間、奥(後宮)へ籠もる故……重大な国政以外の諸事は、その方が責任を持って差配せよ」私はそう言い残すと、山積みの戦後処理と仕事をすべて比干叔父上の上へと丸投げし、足早に帰途へとついた。すまない、叔父上。王の我儘に付き合わせるが……後始末は任せたぞ。




