己の浅はかさが、ここに
紂王伝 第108話 ――どうしましょう。どうしましょう、ばれてしまいましたわ……!私と身長がほとんど変わらず、顔立ちもよく似ている侍女を身代わりに立てて、あの野蛮な爺の目を欺くはずでしたのに。ああ、なんてこと。あのキチガイの爺は、別人だと気づいたその場で、一言の尋問すらなく侍女の首をへし折って殺してしまったというの。ひぃ……ッ!わ、私もただで済むはずがありませんわ。すでに王の元へと呼び出しを喰らいました。身体の震えが止まらない。も、もう、本当におしまいかも知れませんわ。けれど、拒むことなど許されない。私は流れる冷や汗を拭うこともできず、あの化け物の待つ寝室へと向かった。「へ、陛下……お待たせいたしました……」私は部屋に入るなり、名門のプライドもすべて投げ捨てて、床に深く平伏した。「傅華。私の相手をしたくないというのなら、それならそれで、事前にそう言えば済むことだ。……だが、王を謀るとは一体何事か」頭上から、地を這うような重々しい低音が降ってくる。「王后の風とて、私と閨を共にできぬ夜は正直にその旨を言い、私の許可を得てから代わりの侍女を差し出す。それが王朝の法度だ。それを貴様は――」そこで王の言葉が切れる。平伏したまま、私は心の中で激しく毒突いた。(この糞爺、そんなこと私から直接言える訳がありませんわ! 私の、九国の姫としての立場を少しは考えて喋ってくださらないかしら!?)そんな野蛮な爺の相手などしたくないと、私が頭を下げて請うなどできるはずがない。けれど、そんな本音を口にすればそれこそ即座に八つ裂きだ。私は必死に頭を働かせ、生き残るための弁明を紡ごうとした。「陛下、此度の件は、私の……」「良い、それ以上喋るな」――っ。冷酷な一言で、言葉を完全に遮られてしまった。「幾ら弁明を重ねようとも、王を謀ったという事実は消えぬ。……すぐに貴様の父、九侯をこの朝歌へと呼び出す。それまでの間、己の屋敷で一歩も出ずに謹慎しておれ」王はそれだけを言い捨てると、平伏したまま動けない私を床に放り出したまま、一瞥もくれずに部屋を立ち去っていった。静まり返った屋敷のなか、私は這うようにして自室へと戻った。視線を落とした先には、寝具に残された、首を無残にねじ切られた侍女の骸が横たわっている。流れ出す鮮血と、変わり果てた哀れな身代わりの姿。それを凝視しながら、私は己の浅はかさが産み落とした最悪の惨劇の重さに、ただガタガタと身を震わせ、胸の奥底から溢れ出す黒い後悔の念に、じわじわと侵食されてゆくのだった。




