不実
紂王伝 第107話 九侯の娘・傅華が輿入れしてきから、約束の七日間が経とうとしていた。この前も、彼女は私と風(嬴風)、そして禄父の三人を新築の屋敷へと招き、実に見事な調度品と手際で歓待してくれた。風ともすっかり打ち解けているようだし、風の話では、側室の妲己とも本当の姉妹のように仲良くしてくれているらしい。後宮の調和を見守る王として、これほど安堵することはなかった。そして、いよいよ猶予の七日が過ぎ――今夜、私は約束通り傅華の屋敷へと足を運んだ。「お待ちしておりました、陛下。華様はすでに寝室にてお待ちかねにございます」出迎えた九国の侍女が、恭しく私を奥へと案内する。寝室の扉の前で侍女たちを下がらせ、私は一人、静かに部屋の中へと足を踏み入れた。薄暗い帳の奥、上質な寝具で身を覆い、じっと固くなって私を待つ影が見える。無理もない。まだ十五歳の、大人になりかけたばかりの少女なのだ。三十を超えた私のような大男が夜の褥に現れれば、恐怖で身を竦ませるのも当然のことだろう。「傅華。……もし怖いのであれば、無理はしなくてよい。今夜はただ、こうして一緒に横になって眠るだけでいいからな」私はかつて傷ついた妲己へと施した、あの添い寝の夜を思い出しながら、声音を極限まで和らげて語りかけた。だが、寝具の向こうから、消え入りそうな小さな声が返ってきた。「……いいえ、大丈夫にございます。どうか、陛下のお情けを……」そうか、本人がそこまで覚悟を決めているというのなら、これ以上焦らすのも無粋というもの。私はベッドへと歩み寄り、横たわるその身体へと静かに手をかけた。――だが、指先が肌に触れた、まさにその瞬間。私の武人としての直感が、強烈な『違和感』を弾き出した。視界が暗いため、顔の細部までは判別できない。しかし、数日前の歓待の折にそれとなく観察していた傅華の、骨格や、微妙な肉付きの記憶。いま私の手の中にある肉体は、それと明らかに違っていた。私は冷徹な目でその顎を掴み、無理やりこちらの顔へと向けさせた。目を凝らし、暗がりのなかでよくよくその相貌を凝視する。……似ている。確かに酷く似てはいるが、これは傅華ではない。完全に、別の女だ。「――私を謀ったな?」低く冷え切った声で問い詰めるが、偽物の女は恐怖に歯をガタガタと鳴らすだけで、一切の言葉を返そうとしない。「……はぁ」私は深く、重い溜息をひとつだけ吐き出した。王を謀り、偽物を身代わりに立てた罪。そして、王命に対して答えない罪。どのみち、この女に待っているのは無残な死罪の一択でしかない。ならば、無駄な尋問で時を費やすよりも、今ここで一瞬の苦痛のうちに終わりにしてやるのが、王としてのせめてもの慈悲というもの。私は掴んだ女の細い首を、そのまま力任せに音もなくねじ切った。短い痙攣の後、物言わぬ骸となった偽物をベッドへと放り捨てる。「――誰かある。今すぐこの寝室へ来い」私は衣服を整えながら、外の廊下へと威厳に満ちた声を響かせた。「寝所に別人が紛れ込んでいる。曲者だ」私の怒号を聞きつけ、慌てふためいた九国の侍女たちと、後宮の警護を任せている我が商の女性隊士たちが、一斉に部屋へと押し寄せてくる。やれやれ。初夜だというのに、どうやら今夜は、穏やかに眠りにつけるような夜では無くなってしまったようだ。私は駆け込んできた隊士たちへ冷徹な差配を下しながら、この前代未聞の不敬劇の裏にある、大国・九侯の真意を暗い眼光で見据えるのだった。




