傅華姉さんと呼んで良い?
紂王伝 第106話 家具の搬入や屋敷の体裁を整えるのが、ようやく一段落ついたのだろうか。ここ数日、傅華さんは頻繁に嬴風お姉様の屋敷や、私の屋敷へと足を運んでくれるようになっていた。「――ということですのよ、よろしくて? 妲己さん」「はい、傅華さん。本当に勉強になります」「おほほほほ! 良いお返事ですわ、妲己さん。貴方、物分かりがよろしくて素晴らしいですわ!」彼女は我が九国に伝わる歴史や、宮廷での細かな礼儀作法など、様々なことを得意げに私に教えてくれる。最初はなんだか少し上から目線で、押しが強い人だなと面食らっていたけれど、話を聴いているうちに、彼女がとても博識で、ただ自分の知識を一生懸命に伝えようとしてくれているだけなのだと気付いた。入内した初日の、あの冷たくてツンとした印象とはまるで違う、根はとても真っ直ぐで良い人だったのだ。年齢も近いし、一緒に過ごす時間が長くなるにつれて、私の中にひとつの甘えたい気持ちが芽生え始めた。「あ、あの……傅華さんのこと、お姉さんと呼んでも良いですか……?」お茶を飲みながら思い切って尋ねてみると、傅華さんは一瞬驚いたように目を見開いた。 そして、見る間に顔を林檎のように真っ赤に染め上げると、扇で口元を隠しながらもじもじと答えてくれた。「え、ええ……! 勿論ですわ。……そ、それなら、私も貴方のことを『妲己ちゃん』と呼んでよろしいかしら?」「はい! 嬉しいです、傅華お姉さん!」お互いに『傅華お姉さん』『妲己ちゃん』と呼び合うことになり、私たちの距離は一気に縮まった。照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑む彼女の顔は、とても可愛らしかった。「あ、そうそう! 大分屋敷の片付けも落ち着いてきましたの。王后両陛下と王太子殿下を先にご招待した後になりますけれど……妲己ちゃんも、私の屋敷に来てくださる?」「はい! 喜んで行かせてもらいます。とっても楽しみです!」私が声を弾ませて伝えると、傅華お姉さんは「ええ、是非とも! 大歓迎でお迎えいたしますわ!」と、すこぶる機嫌よく自分の屋敷へと帰っていった。遠くから歩いていく彼女の後ろ姿を見送る。あんなに不器用で優しくて、素敵なお姉様に対して、私は勝手に醜い嫉妬の心を燃やしていたなんて。本当に……馬鹿だな、私。私は自分の小ささを恥ずかしく思いながらも、新しくできたお姉さんの存在に、胸を温かい幸せで満たしていくのだった。




