えへへ、旦那様と
紂王伝 第102話 夕方、私は嬴風お姉様や禄父くんと一緒に、いつものように大好きな旦那様をお出迎えした。相変わらず、あの傅華は「荷解きが忙しいから」とお出迎えにやって来ない。長旅での疲れもあるかもしれないけれど、顔くらい出せないものかしら。(――ううん、ダメ。こんなことを考えるのは、ただの新妻に対するいびりみたいになっちゃう。心の中にしまっておかなきゃ)私は自分の頭を小さく振って、不満を綺麗に消し去った。その後、お姉様の屋敷へと移動し、みんなでいつも通りに和やかにお茶を頂く。温かいお茶にホッとしていると、旦那様が少しだけ真面目な顔をして私に視線を向けてきた。「妲己。……君さえ良ければの話なのだが、今日の夜、君の屋敷へ向かって……その、添い寝をしようかと思うのだが、どうだろうか?」「え……っ!?」一瞬、耳を疑った。旦那様が、私の屋敷へ? 私と、二人きりで……?予期せぬ衝撃と、あまりの感激に胸がいっぱいになり、視界が涙でみるみるうちに潤んでいく。言葉が出ずにポロポロと涙をこぼしそうになっていると、私の様子を見た旦那様が、慌てたようにあせあせと手を振り始めた。「い、いや! 妲己、もし大人の男と二人きりになるのがまだ怖いというのなら、無理にとは言わない! その、なんだ……君が寂しい思いをしているんじゃないかと、私が勝手に想像して先走ってしまっただけだからな!」私のことを心配して、必死に言い訳を取り繕おうとする優しい旦那様。(違う、違うんです旦那様……! 早く、この本当の気持ちを伝えなきゃ……っ!)「違うんです、旦那様! 私はただ、嬉しくて、嬉しくて……っ!」私は堪り兼ねて椅子から立ち上がると、そのまま旦那様の広い胸へと勢いよく飛び込み、ぎゅっと抱きついてしまった。旦那様は一瞬驚いていたけれど、すぐにいつもの優しい顔になり、私の背中を大きな手でゆっくりとさすってくれた。「ふふ、良かったわね、妲ちゃん」嬴風お姉様が、我が事のように嬉しそうに微笑んで祝福してくれる。隣の禄父くんも、少し照れくさそうにしながらも、温かい目を向けてくれていた。えへへ……みんな、本当にありがとう。その日の晩。私の静かな部屋のベッドに、旦那様が並んで横たわってくれた。本当の夜の営み(閨)なんて一切ない。旦那様はただ、優しくその大きな腕の中に私を包み込んでくれた。(旦那様……あったかいです……)お姉様や禄父くんがくれた優しさ、そして旦那様のこの体温が、私の心をどこまでも温かく満たしていく。私は旦那様の逞しい胸のなかに顔をすっぽりと埋め、溢れる幸福感に満たされながら、吸い込まれるように深い眠りへと落ちていった。世界で一番大好きな旦那様の腕のなか。これ以上の幸せなんて、どこにもないわ――。




