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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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絆深

紂王伝 第100話 九侯(きゅうほう)の息女、傅華(ふか)の輿入れが無事に終わり、彼女の長旅の疲れを癒やすための七日間の猶予期間が始まっていた。この間、私は朝歌(ちょうか)の外への巡察を禁じられているだけでなく、十日に一度開かれる朝議も予定されていない。午前中に山積みの木簡に目を通し、必要な裁可を下す仕事を終えてしまうと、午後からは完全に手持ち無沙汰になってしまった。(――ならば、大人しく奥(後宮)へと戻るとしよう)私はそう決めると、足早に家族の待つ邸宅へと帰還した。輿入れしてきたばかりの傅華が、少しでも早くこの新しい環境へと馴染めるようにと、私は家族全員でのささやかな催し(親睦会)を企画し、彼女の屋敷へと提案を届けさせた。しかし、帰ってきたのは丁重な拒絶だった。「越してきたばかりで、家具を調えたり屋敷の体裁を整えたりする荷解きに追われており、時間の余裕がございません」とのことだった。(まあ、大国から五十名もの女官を引き連れての輿入れだ。仕方のないことだな)私は彼女の返答を深く追及せず、代わりに風、禄父(ろくふ)、妲己(だっき)の三人へと視線を向けた。せっかく贅沢に時間が浮いたのだ。私は、普段の過密な政務の中では到底連れ出してやれなかった、家族四人での『遠乗り』へと彼らを誘った。馬にまたがり、朝歌の豊かな自然のなかを風を切って駆ける。遮るもののない広大な景色のなかで、他愛のない会話を交わし、笑い合う。それは、私たちの間の家族としての紐帯(ちゅう帯)を、より一層深く強固なものへと編み直してくれる最高の時間となった。その日の夜、私は心地よい疲労感を抱きながら、正妻たる風の寝所へと滑り込んだ。いつものように夫婦の濃密な運動を終え、互いの体温を感じながらベッドの中で寛いでいると、風が私の胸に顔を埋めたまま、そっと上目遣いに私を見上げてきた。「陛下。……不躾ながら、一つ、宜しければ私からのお願いがございますの」「うん……? なんだい、改まって。とりあえず話してみなさい」髪を撫でながら先を促すと、風は少しだけ真剣な、けれどどこまでも優しい声音で、一人の少女の秘密を私に打ち明けた。「傅華がこの宮廷へと嫁いできた、まさにその日の夜のことです。……妲ちゃんがね、ひどく泣きそうな顔をして、私の屋敷へと一人で尋ねてまいりましたの。『新しく来た華ちゃんに、どうしても嫉妬してしまう。こんな醜い心を抱く私は間違っているから、どうか私を全力で叱ってください』って。あの子、そう言って私の胸で震えておりましたわ」「――何だと」風の言葉に、私の胸がズキリと痛んだ。形式上の妻とはいえ、妲己はまだ十二歳の幼子だ。私が彼女を子供扱いして手を出さない一方で、新しく入ってきた同年代の傅華が、すぐに初夜を迎えて本物の寵愛を受ける。まだ幼い妲己にとって、それがどれほど残酷で、胸を引き裂かれるような現実であるか。だが、為政者としてそれを可哀想だからと特別扱いするわけにはいかない。ましてや今更、傅華を国元へ追い返すなど論外だ。そんな真似をすれば、北西の盾たる九侯の決定的な離反を招き、商王朝の安全保障を根底から破綻させてしまう。私が苦い沈黙を保っていると、風は私の手を優しく包み込み、王后としての、そして一人の姉としての切実な請願を重ねてきた。「分かっております、陛下。傅華を蔑ろにしろなどとは申しません。……ですから、お願いなのです。夜の本当の営み(閨)は、まだ一切なさらなくてよろしいのです。前に、家族みんなの前で約束されたでしょう? ――今度は四人ではなく、旦那様とあの子の二人きりで、妲ちゃんに『添い寝』をしてあげてはくれませんか?」お姉様として、傷ついた妹を救ってあげたいという、風の無償の慈愛。確かに、以前に特大の寝具でみんなで並んで就寝した実績もある。あの日、私の腕の中で安心しきって眠っていた彼女の姿を思い出す。いきなり男である私と二人きりになっても、恐怖で身体を強張らせることもないだろうか。「……ああ。そこまで風が言うのなら、分かった。明日、私から直接妲己に聞いてみよう。もしあの子が望むというのであれば、喜んで彼女の寝所へ添い寝に伺おう」私がそう首を縦に振ると、風はまるで自分のことのように顔を輝かせ、本当に嬉しそうに何度も私にお礼を述べてきた。愛しい妻をもう一度強く抱きしめながら、私は自分の心のなかに、妲己に対する奇妙な感情が育っていることに気づく。――それは、男女としての情愛というよりも、まるで自分の血を分けた実の娘を慈しむような、強烈なまでの『庇護欲』であった。傷つき、必死に自分の心と戦っている健気な少女を、何があっても私のこの腕で守り抜いてやりたい。(まあ、王妃に対してそのような家族としての情を抱くのも、悪いことではないか……)私は己の胸の内に湧き上がった温かい感情を肯定すると、隣で穏やかな寝息を立て始めた風の温もりを感じながら、静かに目を閉じるのだった。

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