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半透明の蓋を開けることで、より明瞭になった箱いっぱいの彩りに、私は思わずため息をつく。
「わあ……めっちゃ綺麗」
「見た目のことばっかり言うな。肝心なのは味だろ、味」
私が漏らした率直な所感に、北上くんは不服そうだ。
十二月のとある昼休み。
相も変わらず活動時間外に部室へと出入りする私達。本日はここで二人、昼食を取っていた。他の人の存在がない時間は、建物全体がひんやりとする季節。集中管理されているスチーム暖房のバルブをこっそりとひねる。
先月晴れて正式にお付き合いをするはこびとなった私達だけれども、意外と学校生活そのものに大きな変化はない。昼休みもこれまで通り、基本的にはお互いのクラスで過ごしている。
けれども昨日の部活帰りに、北上くんから唐突に「俺が弁当作ってやるから明日一緒に飯食おうぜ」と誘われたのだ。私は当初、一緒に食べるのは構わないがお弁当は持参するから要らないと固辞した。しかし今回に限って北上くんは自分が作りたいのだとこだわり、押し切られて今に至る。
北上くんの作るお弁当が美味しいのは、以前作ってもらった時に承知済みだから、差し入れ自体は嬉しい。でもその一方で、やはり忍びないという気持ちは拭えないのだった。
鮮やかなオレンジ色のナポリタンがフードコンテナの半分を占めるパスタ弁当。敷き詰めたパスタの隣には卵焼き、ウインナーといった味が移っても支障ないおかずが直接詰められていた。その他にシリコンカップで仕切られたポテトサラダとピクルスが、絶妙な差し色の役割を果たしている。
「ほら、早く食えって。そして美味いって言え」
「態度が悪い」
作ってもらう立場で楯突く私の振る舞いも、褒められたものではないかもしれないが、あまりにもがめつく要求されるとつい一刺しせずにはいられない心理があるのだった。
「……いただきます」
一呼吸置き、気を取り直して手を合わせる。
割り箸を割ってパスタを掴み、口へ運ぶ。ケチャップの奥に感じる甘味と塩味。砂糖や塩胡椒で単調ではない味に調っている。ピーマンや玉ねぎなどの具材も、甘くなるまで丁寧に火が通してある。炒めた時に使ったのか、ほんのりとバターのような香りもした。
「……美味しい。本当に」
これは本心からの言葉だった。直前に感じていた意地を超えても自然とそう言えるくらい、北上くんの作ったおかずは箸が進む。
当の本人はその一言で満足しているようだけれども、だからこそ、引け目も感じるところがあって。
「でも……やっぱり申し訳ないよ、こんなに美味しいお弁当作ってもらって。手間だってかかるだろうに、私はまともなお返しも出来ない」
「申し訳なく思うなよ。前に作った時も、容器返す時にわざわざお菓子入れて寄越してくれたじゃねえか」
前回は何の予告もなくお弁当の差し入れがあって、そのフードコンテナを家で洗ってから返す際に、なかに飴やチョコレートを入れたのだった。その時家にあったものばかりだし、ラッピングなども全くせず、本当に有り合わせといって良いような“気持ちばかり”だった。
「……私に出来ることなんてせいぜいその程度だよ。百華ちゃんみたいに、手作りとか出来るわけじゃないしね」
ちょっとしたことで卑屈になりがちな私は、こうやって未だに百華ちゃんを引き合いに出してしまう。結構根に持っているのだ。
結局あの一件は私の取り越し苦労で、百華ちゃんと北上くんの双方に恋愛感情は存在しなかった。とはいえ、自分の好きな人が他の女の子へ気持ちを傾けるかもしれないという、不安と悔しさと何よりも嫉妬に苛まれるあの感じは、不意に思い出すほどには負の感情が付き纏っている。
ただ、北上くんの気持ちを確かめ、更に正式に付き合っているという形としての強みは、そんな私の支えになっている。だから、その時のことを思い出して度々嫌な気持ちになってはいるけれども、最終的には「まあいいや」と難なくやり過ごすことが出来ている。
もしかしたら今後どこかで、また異なる状況で同じような感情を味わうかもしれない。けれども、そうなったらその時にどうにか立ち回るだろうし、どのみち北上くんのことは誰にも譲らないしと、実はかなり我の強いことを考えている私だった。
「律子は時々ずれてるよな。俺は別に、手作りのお菓子が欲しいわけじゃないんだっつーの」
私に作ってくれたものよりも少しだけ大きなサイズの容器に入ったお弁当をつつきながら、北上くんが言い放つ。
確かにこの一連の流れは私の一人相撲になっていたことは否めないけれども、平素独自の理論を主張して周囲を困惑させている北上くんに、「ずれている」と言われるのは癪だった。
私はむっとするけれども、北上くんは自らのペースで続ける。
「お前がそんなにお返しにこだわるんだったら、俺はマジで要求したいことが一つあるんだが」
フードコンテナの蓋に箸を仮置きして、急に改まったそぶりを示す。
やけに神妙な雰囲気に引きずられて、私も何となく箸を置いてしまった。




