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少しの間落ち着いて話せる場所を――公園や緑地のような場所があればおあつらえ向きだったけれども、どちらも本来の目的地より外れた道を行かなければ辿り着かない。
妥協案ではあるが、ここで立ち尽くすよりは幾分ましだろうということで、私達は土手道に逸れることにした。車も人も通るアスファルトの道があって、そこから芝生の斜面が川に向かってごくなだらかに伸びて河川敷広場に続く。
車の通行を気にするのが煩わしくて、自転車を引いたまま二人でその斜面を降りる。といっても、暗がりのなか川まで近づき過ぎるのは憚られて、土手側にかなり寄ったところに自転車を停めて留まった。
秋の暮れ、しかも日の落ちた後ともなると川風が身に沁みる。制服の上に厚手のカーディガンを羽織っているとはいえ、時折身震いしてしまうほどだ。
それだというのに北上くんの方はというと、平気な顔をして自転車を停めた傍らの芝に座り込みを始めている。
「座れよ、律子」
事もなげに促されるけれども、地べたに直接座ることに抵抗がないわけではなかったし、草も地面もさぞかし冷えていることだろうから、正直気が引けるところはあった。
「……寒いじゃん」
「いいから、こっち来いって」
さりげなく難色を示すも、北上くんは構わず一刀両断するのでそれ以上抗う気にもなれず、私は停めた自転車の後ろから回り込んで彼の隣に腰を下ろした。
結局いつもこんな調子だ。口では何だかんだ言いながらも、私は北上くんの勢いに導かれるがままだ。
それが妙に悔しくて、遅くしないって言ったくせにとか、座り込みまでするということは面倒臭い話を始めるつもりなのではとか、鬱屈した被害感が湧いてきた。
こちらはもう先ほどまでのくだりで破れかぶれなので、「確認したいことがあるなら早くしてよ」と言いたいほど、半ば自棄気味の気構えである。
私に座る指示だけをした後は黙っている北上くんを、つついてやりたい刺々しい自分が顔を覗かせようとした、その時のことだった。
背中から肩にかけて何かが触れる感じを覚えた。首を傾げるよりも先に、出来事に気づいて息を飲む。北上くんが左腕を回していて、抱き寄せられるような形で私の身体は傾いていた。
「な、何、ちょっと……!」
「律子が寒いって言うから」
「だからって……」
こんな暖の取り方があるかい、と心の内で私は突っ込みを入れる。
「嫌なのかよ……」
北上くんは絞り出すような声で口ごもった。
躊躇いを含んだ沈黙が僅かな間流れたかと思うと、どこか鋭さを感じる声で、彼は私に言う。
「――――俺のこと、好きなんじゃないのかよ」
酷い脅し文句だ。私のいちばんの弱みを突くなんて。
「……ずる過ぎるでしょ、北上くん。そういう形で私に言わせるの?」
「ずるかろうが何だろうが構わねえよ。俺は律子の口から聞きたいんだよ。ノリとか雰囲気でそれっぽく片づけるんじゃなくて、はっきり言って欲しい、俺が好きだって」
どうしてこの人は、こんな状況でもなお自分の気持ちに真っ正直でいられるのだろう。あまりにも正直過ぎて、むしろ無茶苦茶なほど。
呆気にとられる私を他所に、北上くんはさらに勢いづく。
「でないと、勘違いしちまうだろ。そうなったら、俺はお前のこと一方的に好きになるぞ。それでもいいのか?」
「……何て脅し方をするの。告白する人の態度とは思えない」
さらりと明らかにされた北上くんの意に気づいて一瞬はときめく私だったけれども、相変わらずがさつな振る舞いには戸惑いを覚えずにはいられなかった。
土手から降りた辺りまではどこか意味深で神妙な雰囲気を匂わせていたと思う。それなのに、蓋を開けるとあまりにも平常運転な北上くんの姿勢に、思わず拍子抜けする。




