14-1
いつまでも留まっていて良い時間帯でもないし、百華ちゃんの姿が見えなくなった後は私達も殆ど間を置かないうちに解散するはこびとなった。
電車で帰る聖嶺ちゃんは再び駅へ立ち入ったところで、「こんな微妙な空気で別れたのに、うち、結局この後ホームで百華と一緒になっちゃうじゃん。超気まずいんだけど」とぼやいていた。彼女達は降りる駅こそ違えど、同じ方面の列車を利用するのだった。
ばつが悪そうに頭を抱える聖嶺ちゃんだったが、最終的には「まあ、うちも言わなきゃいけないことあるし……」と自分に言い聞かせるように呟きながら改札をくぐって行く。
その後、珠里ちゃんと私は駐輪場へ向かう。駅と通路で繋がっている立体駐輪場なので、聖嶺ちゃんをコンコースで見送った後、そのまま構内を移動した。精算機で料金を支払い、各々自転車を回収する。
駐輪場から出たところで互いに別れを告げて、珠里ちゃんは自転車に乗って帰途へ着く。
一方の私はというと、ロータリーになっている外通路を辿って自転車を引きながら、再び駅のあの出入口へと引き返していた。
百華ちゃんが去った後、自分達もぼちぼち帰ろうかという流れになったところで、北上くんが私を呼び止めたのである。部活後でもない上たまたま遭遇した状況なのに律儀にも、自分が家まで送ると言うのだった。
そのために一端店に戻って自転車を取ってくるとのことで、一度別れて再び待ち合わせることになったのだ。当初はそうまでして送ってもらわなくても良いと私は断った。店の手伝いもあろうに、流石に忍びなかったのもある。
けれども、何故か北上くんは「馬鹿お前、こっちにも事情ってもんがあるんだよ。ふざけんな」と何故かキレ気味だった。事情とは何なのか、何をそんなに苛立っているのか読めない部分はあったけれども、結局そんな彼に押し切られて今に至る。
そりゃ北上くんと過ごす時間が少しでも長くなるのは嬉しい展開だ。この場にはいないはずの百華ちゃんが、心のなかから「だって送って欲しかったんでしょ?」などと煽ってくる声さえ聞こえる。
けれども、私は内心で怖気づいていた。散々醜態をさらしたことに対する今更ながらの羞恥心だ。「他の子なんて見ないで」とか「私だけの北上くんでいて」とか、正式に付き合っている間柄ならいざ知らず、冷静に考えると正気の沙汰とは思えない言葉の数々。北上くんの性格上、それらの言動を強く非難することはないだろうけれども、本音としてはどう受け止めたのか把握しきれていないから、きまり悪さだけが心のなかに残っている。
改めて真意話すのが筋だろうけれども、いつがいいだろうか。これからすぐにでも言った方がいいだろうか。
自転車を支えながら道を塞がぬよう壁に寄り、通り過ぎる人を目で追ったり追わなかったりしながら、性懲りもなく私は往生際の悪い逡巡に走り始めていた。
そうして、冷え始めた外気に触れる指先の体温が徐々に奪われていく頃に、北上くんは再び現れる。
荷台のついた自転車に跨ったまま足をついてその場に止まる北上くんは、私の顔も碌に見ず、「じゃ、行くぞ」と一言だけ告げて、再びペダルを漕ぎ出した。
部活帰りには毎回律儀に私を家まで送ってくれている北上くんは、道順選択もこなれたもの。出発点が駅前に変わっただけで、後はいつもの下校時の調子のまま、先導するように私の少し前を走る。その間、彼はやはり何も言わなければ、振り返りもしない。
前を行くその背中を、何台かも分からない数の追い越していく車のヘッドライトの光が、次から次へとなぞって通り過ぎる。
私の家へ帰るには、橋を渡って川を越える必要がある。県を跨いで流れる割と流域の大きい水系の河川だ。河川敷は広く手入れがされていて、昼間はそこでちょっとしたスポーツを楽しんだり犬の散歩コースにしたりする人もちらほらいるようなところ。
やがて、その橋に差し掛かる手前で北上くんのタイヤが回る速度が落ち、静かに停止した。
彼の様子に気づいていた私は、追突しないタイミングで自分もハンドルのブレーキを握って、ゆっくりと走りを止める。
「――――そんなに遅くしねえからさ」
こちらへ向き直って北上くんが言う。それまでの無言からは唐突にも聞こえる言葉だったけれども、彼の目が思案するものを感じ取って、私は押し黙った。
「この橋渡る前に、一つだけ確認させてくんね……?」
いつものがなり声とは対照的な、息で喋るその声はどこか差し迫った色を帯びている。
筋とか体裁とかくだらないことに思いを巡らせていたことが馬鹿々々しくなる。
彼の視線に射抜かれ、声に擽られる私の心はもうとっくに、逃れられないほどに引き寄せられていたのだった。




