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気がかりだった珠里ちゃんといえば、暫くの間一般教室棟ではない人気のない校舎内を歩いて気を紛らわせていたようで、私と入れ違いになる頃に教室へと戻っていたとのこと。再び教室で顔を合わせた時には予期していたよりも落ち着いた様子だったので、ひとまず私も安堵した。
とはいえ事態の全貌が未だ不明だし、百華ちゃんの人物像にも隠されたものが多いことが推察された。そこで放課後になると私は、帰宅しようとする珠里ちゃんを呼び止めて話を聞かせて欲しいと申し出た。すると、珠里ちゃんは「むしろ聞いて!」と食い気味になって、申し出に応える。
それで、私達は活動日ではないけれども部室へと向かい、総勢二名の“緊急会議”を開催するに至ったのだ。性懲りもなく部室の私物化。本当によろしくない生徒である。
剰えキャビネットにしまってある電気ケトルとティーバッグ(こっそり持ち込んでいるもの)を使い、紙コップに紅茶やハーブティーを淹れ、酒盛りならぬ“お茶盛り”などする始末。
「私は自分が恥ずかしい……!」
淹れたばかりのカモミールティーを煽るように飲み、拳で机を叩く珠里ちゃん。熱いんじゃないのかな、と私は驚くが、彼女が歯を食いしばる理由は別のところにある様子。
「百華のこと、もう済んだことなんだし、絶対に蒸し返すつもりはなかったのに。身近で同じことが起きていて、思い出しちゃった。こんなに根に持ってたなんて、私は器が小さい軟弱者だよ」
「軟弱者だなんて……どうしてそんなこと言うの。桐矢くんのことは、百華ちゃんに軽く経緯を聞いてるけど、ぶっちゃけ珠里ちゃんが腹を立てるのも無理ない話だと思ったよ」
自己嫌悪に陥っている珠里ちゃんを憐れんでいるわけではない。これは率直な私の感想だった。
少し吹いて冷ました香りの強いアールグレイを一口飲む。柑橘の香りが口いっぱいに広がって、鼻へと抜けた。
「自分の彼氏に頻繁にノートを借りてお礼して、なんて接し方されたら面白くないよ。そんなことがあったのに私、気づかなくてごめん。百華ちゃんと一緒にいるの、嫌だったでしょうに」
「律子は悪くないよ。百華にしたって……あの子が嫌がらせを受けて困っていることと、桐矢の件は本来関係ないんだから。でも……私は結局折り合いをつけられなかった」
元来賢くて正義感が強い珠里ちゃんだから、自分の感情と現在起こっていることを分けて考えようと、頭のなかで懸命に整理しようとしていたのかもしれない。だからこそ、百華ちゃんに対して拒否的な態度をとった自分自身が、珠里ちゃんは許せないのだろう。蹲っては「切腹致す……!」と冗談めかしたことを言い、悔いている。ちょっと可愛らしい。
「そんな、折り合いなんてつけられるもんじゃないよ。私が珠里ちゃんの立場だったら、絶対発狂してたと思う」
今現在私は、付き合ってもいない北上くんを巡って百華ちゃんへの鬱屈した気持ちを募らせている。これが仮に、正式に付き合っている関係だったと考えたら、自分がどんな反応をしたか想像するのも恐ろしい。それだけ繊細で危うくて手に負えない、取り扱いに注意すべき感情なのだ。




