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「だけど、あの感じだと桐矢くんや北上くんだけじゃなくて、百華ちゃんは色んな人に同じことしてるのかな。だとすればクラスの女の子達が言っていたみたいに、嫌がらせされる恨みはあちこちで買ってるのかもね」
「実際そうだと思うよ」
不在の人物、しかも良いとはいえない感情を持つ相手について話すと悪口じみて好ましくない。けれども、下駄箱への嫌がらせ事件は、私達が今置かれている状況のきっかけでもあったので話さずにはいられないのだった。
私がぼんやりと推測すると、珠里ちゃんは幾分はっきりとした口調で言う。
「実は百華の良くない噂、結構聞いててさ。やっぱり昔から、同じようなことを相手を変えて繰り返しているみたい。そのせいか分かんないけど、中学時代は苛められてたりもしたんだって。そりゃまあ苛めは可哀想だけど……何だかなあって、感じだよね」
「居たたまれないよ……百華ちゃんも自覚あるだろうに、何でそんなことしちゃうんだろう」
所謂根っからの恋愛体質で、とにかくすぐに誰かを好きにならずにはいられないといった明確な理由があるなら、称賛すべきかどうかは別にして、彼女の行動を理解することはできる。
でも百華ちゃんは、自分はみんなに嫌われている、そして誰のことも好きではないと話していた。それが嘘ならまだ良い。けれどもあの時の彼女の語りぶりは、至って冷ややかで落ち着いていて、どう感じているのかは分からないけれども事実ではあるようだった。
価値観や感覚は人それぞれとは承知しつつ、誰のことも好きではない、という彼女の感じ方は私の理解を困難にする。恋愛感情に限らず、人と接する時には程度の差はあれ好き嫌いが出るのが自然だと思う。だから好きで親しい相手とは話したり一緒にいる機会が多くなるし、嫌いだったり苦手だったりする相手とは何となく距離ができる。よって、誰からも好かれず誰をも好きにならない、という彼女の捉え方は、私には馴染まないのだった。
そんな百華ちゃんの心的傾向をこれ以上深堀しても、お茶は冷めるし気も滅入りそうだったので、私は話題を珠里ちゃん側に寄せる。
「一応聞くけど、桐矢くんは百華ちゃんにちょっかいかけられたところで、実際には別に靡かなかったんでしょ」
桐矢くんは人見知りのたちで、限られた人間関係以外の相手との接触を避ける傾向にある。クラスメイトとはいえそれほど親しいわけでもない百華ちゃんが、そんなにぐいぐいと話しかけたところで、彼は浮ついたりしないだろう。
「うん、それは大丈夫。でも……」
私に話を振られた珠里ちゃんは、頷いたのち苦笑する。
「……慣れない人間を相手するストレスと、私に対して気に病んだせいで、桐矢あの時、胃をやられて学校休む羽目になったんだよね」
「もしかして、桐矢くんが先月欠席してたのって、それが原因!?」
彼はこれまでも精神的負荷がかかると、体調を崩して学校を休むことが時折あるのだった。三週間ほど前にも、二日続けて学校を休む日があった。私は、“いつもの欠席”程度の認識でいたのだけれども、背景にまさかこんなことが起こっていたとは寝耳に水だ。
「しかし、桐矢くんのその反応……流石に百華ちゃん側もびっくりしたんじゃないかなあ」
「かもね。その後から、ぱたりと接触がなくなったから」
珠里ちゃんがばつが悪そうに、再び笑う。その時のことを思い出している彼女の顔は、昼休みのような切迫感はなく、どこか懐かしんでいるようでもあった。
「だから、桐矢が心変わりしちゃうとかいう心配は全くないって分かってたけどさ……私は不安だった。頭に心がついていかなかった。まさか自分がそこまで嫉妬深いって思ってなかったんだよ。それで、自分が嫌になるし怖くなった」




