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三十四

 そこから一週間、私は鳥元さんたちとの高校生活を楽しんでいた。

 鳥元さん……漣ちゃんと、吉君、それと前島君。


 はちゃめちゃな漣ちゃん、ドMな前島君、それに突っ込む吉君で、三人は古い付き合いということもあり、仲が良い。


 最初はその様子に入りづらさを感じる、と思っていた。

 だが、そんなことはなかった。

 漣ちゃんも、吉君も、前島君も、私がいることが普通だという様に振る舞う。


「それでさ、別に私が悪いとは思わないんだよー」

「いや、別にもうそれは悪い悪くないの次元じゃないと思うんだよ。

「その心は」

「打つか打たないかの問題」

「あっ」

「えっ、そんな察するみたいな顔するんですか?!」


 頭を抱える吉君に代わり、私がツッコミをする。

 本来だったら吉君がツッコミをしているはずの場面。

 だが、そんな場面で吉君はツッコミを放棄している。

 ……ま、要するに私にツッコミ役を投げたのだ。


「いやー、美沙ちゃん中々いいツッコミしてるねぇ……」

「まさかこんなにもやるなんて思わなかったよね……

 だって現に秀が黙ってるくらいだし……」


 漣ちゃんと前島君は二人揃って吉君の方を見る。

 そんな二人に見られた吉君は、


「いやさ、俺が今まで千働いてるじゃん。

 それを女神美沙さんが百俺の仕事を引き受けてくれる能力があるんだよ。

 お願いするしかないじゃん」

「それは……って秀お前千も働いている計算なのか……」


 吉君の言葉に納得しかけた前島君が呆れた様な声を出す。

 私は苦笑いしながらその話を聞いている。

 それは何も誇張しているから、というわけではない。


「確かに……」

「え、美沙ちゃんまで……」


 現にこの二人は終始ボケているのだ。


 なんというか、意図的にやっている部分もある。

 だが、それ以外にも天然な部分も多いため、ツッコミが忙しい。


 それに面白いのが、ボケていてツッコミを放棄していると、そのボケが今後に響いてくるのだ。


 勘違いしたまま続く、といったほうが正しいだろうか。

 だからツッコミをするしかなくなる。

 それを一人でやっているのだと思うと私も苦笑いしかでないというもんだ。


「待ってみさち苦笑いしてるんだけど……」

「あはは……」

「え」

「え」


 絶望した顔をする前島さんと漣ちゃん。

 現に否定できない現状のせいで、私はその表情にすら返答ができない。


「な、分かったろ」

「勝ち誇った顔するなよ秀ぅ……」

「後で締める」


 拳を鳴らす前島君に、首を掻っ切る動作をする漣ちゃん。

 その動作に吉君はハッと鼻で笑う。


「でも、お二人とも面白いからいいじゃないですか」


 私はその様子に言葉を漏らすと、


 吉君は私を見て、

 漣ちゃんと前島君の方を見て、

 私を見て、

 目を瞑り、

 もう一度二人のことを見て、


「否定できない……」

「長くないかね!?」

「あと否定できないってどういうことよ!?」


 前島君と漣ちゃんのツッコミを見て、私はクスりと笑う。

 こんな風景は今までの私には少し遠かったものだった。


「はぁ、ほんと、お前らのこと見てるとさ、彼女とか彼氏とかできなさそうだなって、すごく思うんよ」

「俺は運命のご主人様探しの最中だから。

 てかご主人様に会うのは運命だから。

 運命って書いて『さだめ』って呼ぶやつだから」


 前島君は吉君の言葉に対して、身を詰め寄らせながら話す。

 一方の漣ちゃんは、額を抑えながら、


「まーじでその話辞めて……」

「え……」


 結構ナーバスな感じになっている漣ちゃんの様子に私が動揺していると、


「あ、こいつ男運が最高に悪いし、一目惚れ体質だし、貢癖があって、愛が重いって何度も断られてるんだわ」

「えぇ……」


 あの漣ちゃんが? という目で漣ちゃんの方を見ると、殺すぞと言わんばかりの瞳で吉君の方を見ていた。


 それと同時に、私は漣ちゃんと吉君が付き合っているのではないかと勝手に思っていたことに、心の中で謝罪をする。


「俺は俺で、なんかよくわからんが避けられるしな」

「いやまぁ、お前は変態だからな……」

「お前に言われたかねぇよドM! 運命のご主人様でも妄想してろ!」


 納得した顔で罵られる前島君をよそに、私も少し疑問に思う。

 確かに、吉君以外の2人は、明らかに少しズレている人だ。

 かくいう私も、普通とは言い難いけど、だからこそ吉君の普通さに疑問を覚える。


「あ、確かにみさちにはまだ話してなかったよねー」

「……いや、マジでいらないから。

 変な人だと思われたくないから」


 吉君の制止を聞かずに、漣ちゃんはどこからか財布を取り出して、百円玉を出した。

 その表情はなんだか、いたずらをする前の子供のように見えた。


「これ、秀が見えないようにどっちかの手で握っておいてくれない?」

「え、はい」


 私は言われるがまま、背中で左手にコインを持つ。


「それを二つ前に出して」

「こう……ですか?」

「そうそう」


 私は漣ちゃんの指示に従って、吉君の目の前に両手を出す。

 この左手の中には百円玉がもちろん握られているが、パッと見ではわからない。


「それじゃ、秀」

「……やらなきゃいけないのか?」

「あんた、私の恋愛事情暴露しておいてそれはないわよね」


 漣ちゃんからの視線で、吉君は折れ、私の方を見て質問する。


「あなたは、右手にコインを持っていますか?」

「え、いいえ」

「じゃ、左手にコインを持っていますか?」

「いいえ」


 場の雰囲気的に嘘をつかないといけない状況かな、と思って、私は嘘をつく。


「左手に入ってる」


 私の返答を聞いた瞬間に、吉君は私の左手を指して、そう言った。

 私は両手を開け、左手にコインが入っているのを見せた。


「はい、もっかい」


 漣ちゃんの言葉に、私はもう一度同じことを繰り返す。


「あなたは右手にコインを入れてますか?」

「はい」

「あなたは左手にコインを入れてますか?」

「はい」


 本当は右手に入っているが、会えて今度は両方にはいと答えてみる。

 すると、吉くんはすっと、私の右手を指して、


「そっち」


 私は即座に両手を開けて、再度同じことを繰り返した。


「こっち」

「こっち」

「こっち」


 その悉くが、吉くんの質問によってバレていく。

 嘘をついたり、正直に言ったり、表情を変えてみたり、誘導してみたりと、付け焼き刃なもので対抗するも、全て不発に終わる。

 既にもう6回目の連続正解に、私は少し信じられないものを見るように、もう一度行う。


「こっち」


 そうして指されたのは、左手。

 私は驚いた表情をしながら、両手を開いた。


 そこには、右手に入っているコインが見える。


「お、外した」

「だからそんな万能じゃねぇっての」


 私はもはや何故今外したのか? という目線で吉くんと自分の手を交互に見た。


「ね、変態でしょ」

「……確かに……」


 漣ちゃんの言葉に同意する私。

 そんな私の言葉に吉くんは肩を落とした。


「変態って、別にちょっと勉強すればこの位できるよ」


 その言葉に、素直に感心する私と、ふーんとつまらなさそうに聞く漣ちゃん。


「あ」


 そこで、唐突に一人でトリップしていた前島くんが声を出す。

 さっきまでの話は終わり、前島君に集まる視線。

 その視線に少し顔を赤らめた前島君。


「なんで照れるんだよっ!」

「だって、そんな熱視線で見られたら……」

「熱視線ってお前が集めた視線じゃねーの……?」


 吉君の呆れたツッコミに、前島君は思い出したかのように、


「いやさ、今月もあの日じゃん。

 新しいの入ってるからさ、付き合ってよ?」

「あー、もうそんな日か」

「確かに、そんな日だったね」


 私以外の3人で進んでいく話に少々動揺する。

 とりあえずいかがわしい店でないことを私は祈りながら、


「えっと、何の話……」

「あ、確かに。

 まだあの日を迎えてないのか」

「みさち、ここら辺にはね、知る人ぞ知る辛口専門店があるんだよ。

 その名を、『(あらた)

 その激辛具合はもう……」


 思い出しただけで辛かったのか、目を閉じる漣ちゃん。

 吉くんにも視線をやると、そこには同様に冷や汗をかいている吉くん。


「よし、じゃあ奢ってあげるから宮本さんも来なよ!」


 その日の夜、帰ってから吉君と漣ちゃんから、『胃薬を持ってきた方がいい』というメッセージが同時に届きました。

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