三十一
「おはよう」
土曜、日曜と学生は一瞬とも思えるような時間を過ごし、月曜を迎える。
多くのものが学校というものが憂鬱に感じ、その足取りを重いものにしている。
その中で異質なのが、『学校に行くことを楽しみにしている』人だ。
「お、おはよう」
ミヤ……ではなく美沙は、ヒデヨシ……ではなく秀に対して挨拶した。
声をかけられた秀は、美沙の姿に少し反応を遅らせてしまう。
「なんか連日ゲームであっているせいで一瞬美沙がわかんなくなったよ」
「なんか傷つくような傷つかないような微妙なラインだなぁ」
美沙は微妙な顔をした。
美沙と秀は、土曜日曜の二日間を、【灯台】と過ごしていた。
美沙は集団戦というものに慣れるために、気配を読み取ることの強化。
秀は逆に、自身の強化に務めるのではなく、【灯台】に対して若干のアドバイスと、ミヤの訓練に付き合っていた。
「それにしても、だいぶ強くなってるよね」
「ん?
私?」
「そうそう、多分やり方次第では余裕で若葉に勝てるよ」
二人は通学路を歩きながら、楽しそうに話している。
二人とも自転車を使ってもいいのだが、なんとなくお互いが会えるのではないだろうか、という淡い期待を抱いているためだ。
「そうかな?
私的にはまだ【灯台】の二つ名持ちにはかなわないと思うんだけどなぁ」
「あんなのとは比べちゃいけないよ。
あれは一人で【灯台】の一小隊以上の実力を持っているんだよ?」
だがしかし、悲しい事に二人の通学時間は合わない。
美沙は基本的に一票でも多く睡眠をとり、遅めに学校に登校するタイプ。
秀は逆に朝早く起きて、しっかりと脳が目覚めた後に、何があってもいいように早く学校に向かうタイプ。
「うーん、それはそうなんだけどねぇ」
「そうそう、今でさえ美沙の成長は常人をかなり超えてるから、誇ってもいいんだよ」
そんな二人が、今日に限って一緒に登校している理由とは、
「それにしても、秀今日は寝坊?」
「……土日の分の勉強があんまりできてなかったからね……」
秀が遅く登校している事に他ならない。
基本的に真面目な秀のそんな様子に美沙は不思議そうに質問する。
「あれ?
秀勉強する時間なかったの?」
「うーん、あんまり俺はやらないんだけど、今回のイベントは規模が規模だから根回しをしてるんだよねぇ」
「根回し?」
「大層なものじゃないんだけど、どの勢力がどっちにつこうとしてるかくらいは把握したいからね」
そんなことをしていたのか、と美沙は不思議そうな顔をする。
そんな表情を見た秀は、焦りながら、
「今回のイベントの刀を考えれば当然だよ」
「えっと、確か『深淵』だっけ?」
「そ、前に【灯台】の人たちも言っていたけど、多分今回のイベントは多分波乱の予感しかしない」
「そういえば、あの雰囲気で聞けなかったけど、『深淵』ってそんなにすごいの?」
美沙は秀の言葉に、疑問を投げかける。
美沙はイマイチ今回の『深淵』という刀に関して有用性が見出せない。
「すごいも何も、大変な刀だよ。
まだ詳細が一切出てないのも、余計に期待を膨らませる要因なんだけど」
そう言って秀は、くるりと後ろを振り返りながら、
「例えば、今後ろから遅刻常習犯の田中が出てくる」
「え?」
その言葉と同時に、美沙は背後を見ると、曲がり角から同じクラスの田中が息絶え絶えに走っていた。
「また宿題忘れたんか?」
「ごめん急いでる!!!」
だがしかし、その速さは尋常ではなく、あっという間に秀たちを抜き去ってしまう。
「もしあんなに存在感を出して走っているならまだしも、サライは気配を消す奴もいれば、姿を消す奴だっている。
時にはやられないように敗走を選択したり、勝ち逃げを行う」
美沙は秀が田中の出現を言い当てたのに驚きながらも、秀の話を聞く。
「そこで一番信用になるのが、視覚情報。
敵を騙すにも、戦うにも、基本的に絶対的な信頼を得ているのは、己の目」
秀はいつのまにか美沙の頭に手を乗せ、撫で始める。
「『深淵を覗く時、己もまた深淵に見られている』ね。
上手いこと言ってるんだけど、今回の刀の力は、あまりにも絶大すぎる。
視認したら逆に発見される。
仕様がわからないけど、これがもし結構使いやすい刀だったら……」
「どうなるの?」
美沙は秀の困った表情を見て、不安になる。
「ま、でもなんだかんだ言いながら、どうせみんな対策すぐに考えるし、いいんだよ」
「へ?」
だが、すぐさまのほほんとした表情になったことで、肩透かしを食らった気分になった。
「多分、集団戦を行うイベントでは必須になってくるんじゃないかなぁ、っていう予想だね」
そうして、二人は校門を通っていった。
☆☆☆☆☆
「ってか、若葉ってサライやってるの?」
「まー、確かにそんなやってはいないかなぁ?」
時は過ぎ、昼休み。
秀、若葉、漣、美沙は弁当派のため、教室で机を集めてみんなで食べている。
そこで話題になったのは、若葉の話。
美沙は若葉がサライをプレイしていたなと思い出し、質問した。
「次のイベントは?」
「とりあえず出るだけ出る感じかなぁ」
「一緒にやる?」
「いやぁ、多分足手まといになるよ……」
若葉の情けない態度に、美沙は少しむくれる。
その様子を見た秀は、
「若葉は確かにサライをやっているけど、VR空間で体を動かすのは得意じゃないんだよ」
「そ、さらにいうと、僕の得意ジャンルはパズルゲーム。
あの分からないイライラがすごく体の芯に響いて……」
「あー、また出た若葉の悪い癖」
恍惚な表情をしている若葉に、漣が頭を抑える。
いつものことなので、美沙と秀は構わずご飯を食べている。
「とりあえず、ちゃんと明言しておくと、僕は秀みたいに廃人ではないし、二つ名持ちでもないよ」
その言葉に、美沙はそっか、と少し寂しそうにため息を吐いた。
「でも、宮本さんはよく秀についていけるね」
「……ついていける?」
「そ、秀ってVR空間じゃアクロバットみたいに動き回るから、全然目で追えなくて……」
「確かに、何回かしか見せてもらってないけど、秀の動きって気持ち悪いくらいだったよねぇ」
美沙は、少し違和感を感じる。
確かにヒデヨシの動きは早いが、完全に捉えられないほどではない。
だから、二人の見ている世界と、自分の見ている世界は違うのではないかと感じていた。
「ま、気が向いたら来てくれ」
「そうさせてもらうよ……」
そこで、若葉が思い出したように秀に尋ねる。
「そういえば、今回秀たちはどっち側に着くの?」
「あ、そうだったな、今回俺らが着く陣営教えてなかったな」
秀はにこりと微笑み、
「今回俺とミヤは、『地表のモノ』……深淵側と敵対する」




