二十九
「あんた、何時までできるの?」
チャチャはニカッと微笑みながら、ミヤに質問する。
ミヤはメニューを表示して、現実の時刻を表示する。
「あと一時間は大丈夫です」
もちろん、そんなに時間はない。
少し夜更かしになってしまう。
それにテスト勉強ができないが、今この状況はもしかしたら二度と来ないかもしれない、そんな感情をミヤは感じた。
ゲーマーが感じるそんな感情に、ミヤは逆らえなかった。
「そかそか、じゃあ私と一回やってみないか?」
ざわりと、【灯台】の面々が動揺した。
対するミヤは、その言葉に残りと微笑んで、
「わかりました。
すぐにやっちゃいますか?」
快く了承した。
その返答にもまた、周りが動揺した。
「あ、あの、ミヤ殿」
そこでアマリがミヤに話しかけた。
ミヤはアマリの動揺した様子に不思議そうな表情をする。
「ミヤ殿は二つ名と戦うのに、準備とかはしないんですか?」
「準備?」
本来なら二つ名、という者は強さを追い求めるため、二つ名同士で戦うことが多い。
だからこそ、二つ名が“持たない者”と戦うことは珍しい。
「ま、ヒデヨシとつるんでるみたいだし、二つ名持ちとは腐る程あってるんじゃないの?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
よって、二つ名持ちと戦うということは、全身洗礼を持って対処するのがこのゲームの常識であり、ミヤのようにやすやすと請け負うのは珍しい光景である。
「あー、もしかして、二つ名の人と戦うのってすごいことですか?」
「せやねぇ。
二つ名持ちは全体の一%にも満たない人数しかいないから、ここみたいに三人も二つ名持ちがいる同盟は珍しいねぇ」
「そ、そうなんですか……」
ミヤは今更ながら、もう既に二桁に到達しそうなくらい出会っていることに、苦笑いを浮かべた。
「まぁ逆にいうと、このゲームで二つ名を持っているってことは、それほどゲームをやっているということでもあるから、会うこと自体は珍しくないんだよ」
「それにしても、ミヤちゃんの口ぶりから察するに、何回も戦ってるんじゃない?」
ルイがミヤのフォローをするように話すが、オイチの鋭い指摘に、ミヤは顔を背けた。
「ま、それならそれでいいんだよ。
あたしだって本気でやるわけじゃねぇからな」
チャチャはそんな会話を切り、男達に場所を開けるように指示した。
「【豪腕ゴリラ】とでも戦ってたのか?」
チャチャは草原となった道場を見渡しながら、そんなことを言った。
ルイはその言葉に苦笑いしながら、
「いや、この有様はヒデヨシが作ったんだよ」
「ヒデヨシが……?」
ルイの言葉に、チャチャは眉をしかめる。
チャチャはそのまま何か考えるような仕草をする。
「『森の守護者』を使ったのか?」
「そうなんよ、私たちも驚いてるんよ」
オイチはいつのまにかチャチャの後ろに現れて、チャチャの言葉を肯定する。
「うちの方で調べてみるわ。
ちょうど最近、【記者】のやつと知り合ったからな」
「え、【記者】さんと知り合ったんですか?
今度うちに遊びに来てくださいって言っておいてくださいよ」
「あー、確かにルイは会いたいだろうなぁ。
りょーかい、言っとくよ」
チャチャはヒデヨシの話から離れ、別の話をする。
ミヤはイマイチ話している内容がわからなかった。
だが、とりあえず二つ名の話であることはわかったため、今度調べておこうと思っていた。
「終わったね」
そうしていると、道場に広がっていた草原は綺麗になくなって、戦う準備が整っていた。
チャチャは肩に担いでいた大太刀を下ろし、道場の中心に立つ。
「来な」
一言。
チャチャのその一言で、雰囲気が変わった。
先ほどまでは、姉のような、優しい雰囲気だったのが、今は刀のように鋭い殺気を放っている。
ミヤはそんな雰囲気の変化に驚くが、別に気にすることでもないだろうと、道場の中心に歩み寄っていく。
「物怖じはしないんだね」
「ま、まぁ」
ゴリや【夜中】と比べてしまうと、目の前のチャチャの放っている雰囲気はまだ優しい方だ。
多分手心を加えているのだろう。
ミヤはチャチャの言葉に苦笑いしながら、刀を抜いた。
能力は使わず、一本のままにしている。
「打刀ねぇ」
ミヤの刀を見て、舌なめずりをするチャチャ。
その様子に、ミヤは冷静に分析する。
チャチャはまだ構えていない。
刀は見るからに大太刀。
遠距離攻撃の可能性が高い。
だが、チャチャの様子から、それはないだろうと考える。
もし遠距離攻撃をするタイプの刀だったら、少なからず刀を握っているはず。
目の前のチャチャは、刀を甘く握って、脱力していた。
確かに脱力した状態から斬る、というのはダテと戦った時に見せつけられた。
だが、今回は違う。
「どんな戦い方してくれるのか、教えてくれよ」
明らかにこちらを舐めている。
ミヤはもう慣れてしまった、見下されるということを冷静に理解する。
前みたいに一矢報いてやりたい気持ちはあるが、そんな気持ちでどうこうなる相手ではないということは、散々思い知らされた。
「行きます」
だからこそ、冷静に、しっかりと。
一太刀入れる。
ミヤが動き出す。
チャチャは特に驚くこともなく、大太刀を握りしめ、ミヤが間合いに入るタイミングで、横一文字に振るう。
チャチャの刀は『斬非』
その能力はシンプルで、『刀の衝撃を三倍にする』
副作用はなく、シンプル故に使い方が重要な刀。
もし、ミヤがチャチャの刀を防いだり、逸らそうとすれば、返ってくる衝撃で体制を崩す。
そうして、その隙に勝てる。
チャチャとしては、知らない刀と切り結び、その能力を知り、それを乗り越える力を見ようとしたが、
「ふっ」
短い呼吸音とともに、チャチャの眼前に刀が飛んできた。
いきなりの出来事で驚くチャチャは、顔を逸らし、上を向くことで刀を避けた。
そして、チャチャは気づく。
刀に衝撃がこない。
それはつまり、チャチャの刀が何ともぶつからなかった、ということであり、
バク宙。
後ろに乗った体重を利用して、チャチャは飛び上がり、一回転した。
その最中に見たのは、目。
ミヤが足元を斬りつけている様子だった。
そして、目が合うということは、
まだ来る。
刀を地面に叩きつけ、滞空時間を長くする。
そのタイミングのズレによって、ミヤはチャチャの足元をまたも空振りした。
チャチャは着地する。
と同時に間合いを詰めてくるミヤ。
それにチャチャは、
自分も間合いを詰めた。
ミヤはその行動に驚くことはなく、その場で横に一回転して、チャチャの首を刎ねようとしてくる。
チャチャは呼吸をする暇もないミヤの攻撃に、防御を選択するのではなく、
刀を手放し、ミヤにタックルした。
それを予想していなかったミヤは、思い切り体制を崩され、倒れ込んだ。
「カハッ」
地面に叩きつけられた時特有の、肺から空気が押し出される感覚。
チャチャはその一瞬の隙に、ミヤを押す形で距離を取った。
刀を取り、なおも後退するチャチャ。
その表情には、戦いの前のような余裕はなかった。
ミヤは即座に立ち上がり、チャチャが離れていくのを見ると、即座に距離を詰めようと、走り出す。
まっすぐ向かってくるミヤに、チャチャは刀を正眼に構える。
ミヤはチャチャの間合いの外で、足を止める。
なにかを感じ取ったのだろうか、ミヤは低い姿勢で、チャチャの間合いの外を沿うように歩いている。
睨み合う。
先に手を出したのは、チャチャであった。
音もなく、倒れこむように進んでくるチャチャに、ミヤは一歩反応が遅れた。
振りが少なく、なおかつ大太刀の大きさを生かした、範囲の広い攻撃。
袈裟斬りのそれに、ミヤはしゃがみ、横に転がることで対応する。
チャチャはそこから流れるように、ミヤを斬りつけにかかる。
無駄のない斬撃。
全体的に後手に回ってしまったミヤは、しゃがむことで生まれた足のバネを生かして、飛び上がった。
空中にいることで回避が難しくなった。
だが、だからこそ、相手の思考に一瞬の空白が存在する。
ミヤは能力を発動。
両刀でエックスに斬りつけようと、刀を振るう。
十分に届く距離。
チャチャは対応が遅れている。
いける。
その瞬間ミヤは見た。
一切無駄のない動きで、一瞬のうちでミヤの斬撃への防御を間に合わせたチャチャの姿を。
そして、お互いの刀がぶつかった時、ミヤの刀に大きな衝撃が訪れ、空中で体制を崩す。
当然、ミヤは次の瞬間、斬られていた。
眠いので設定コーナーはお休みします。
後から書くかもしれません。




