二十八
「ありがとうございます、ヒデヨシさん」
「ん?
あぁ、別に礼を言われる筋合いはないよ」
ヒデヨシが全員を斬り伏せた後、ルイはヒデヨシの元に走り、お礼を告げる。
それにヒデヨシは苦笑いしながら答え、『森の守護者』をしまった。
「ヒデヨシ殿」
そしてそこにアマリも近づく。
アマリは悔しそうな表情を隠し、ヒデヨシを見る。
「ヒデヨシ殿のことを見誤っていました。
【羽柴】だからと高を括って、侮りました」
「確かに。
だけど今回はそのおかげで勝てた」
「いや、【豪腕ゴリラ】の戦い方を上回るその戦い方は、侮っていなくても負けていましたよ」
アマリの自嘲気味な笑い方に、ヒデヨシは眉を上げた。
「【豪腕ゴリラ】を上回る、ねぇ」
「あんなことができるなら、ヒデヨシさんが『森の守護者』で二つ名を取れるんじゃないんですか?」
ルイはヒデヨシに質問をする。
質問されたヒデヨシは、ルイを見て、ミヤを見る。
視線を向けられたミヤは、なんのことだろうと首を傾げる。
その様子を見たヒデヨシは、ため息をついて、
「別に言わなくてもいいんだが、はっきり言っとくぞ。
あの戦い方は、ただゴリさんの戦い方を模倣しただけの劣化版だ」
頭を掻きながら話すヒデヨシの後ろに、オイチが現れる。
「何言うてんのよ。
【豪腕ゴリラ】はあんな戦い方をせんやんか。
【豪腕ゴリラ】の戦い方はもっと正々堂々とまっすぐで愚直な戦い方やったよ」
「ま、みんなの言いたいことは分かる。
確かに、【豪腕ゴリラ】と言われている、ゴリラ山ゴリ男の戦い方は、オイチさんの言う通りだよ。
だけど、それより前……【豪腕】と呼ばれていた時の戦い方は、違った」
ヒデヨシは、そこまで話した段階で、口を止める。
周りは不自然なその様子に、不思議に思っていると、
「ってことだ」
急に話をやめた。
「え?
普通ならここから解説が入るとこやんかぁ」
後ろにいるオイチは、そんなことを言いながら、後ろからヒデヨシを捕まえようとする。
だが、ヒデヨシはその手をするりと抜ける。
オイチはそんなヒデヨシを何やら驚いた顔で見た。
その視線は単純に捕まえられなかっただけ、というものではないように見える。
「ヒデヨシ殿!」
そこで後ろから、アマリが声をかける。
ヒデヨシはあまりのほうを向く。
アマリはヒデヨシに何か言おうと口を開こうとするが、
「いえ、今回は試合、ありがとうございました」
「……そか」
ヒデヨシは短い言葉で返す。
そしてしばらく無言になった後、
「今回の戦い、アマリに関しては慢心さえしなかったら最初に斬られることはなかったと思う。
全体的に戦い自体は悪くはなかった。
敗因はお前らが一番わかっていると思うから、ここでは言及しない。
それを踏まえた上で細かいことを言うなら、練度とかじゃなくて基礎が足りない。
確かに連携は悪くないが、連携するための前提をもっと大事にしたほうがいいよ」
ヒデヨシのアドバイスに、アマリは少し呆けた後、急いでメニューを展開して、メモをする。
ヒデヨシはその様子を見た後、ミヤの元に歩いていき、
「今日は明日のために早くログアウトするけど、どうする?」
「うーん、どうしよっかな」
ミヤも確かにヒデヨシに聞きたいことはあった。
だが、ここにいるプレイヤーの様に、この機会を逃せば聞けなくなるわけでもない。
なので、ミヤは単純にログアウトするかを考える。
「私はもう少しここに残ろうかな」
「えっ。
あ、えっと、明日大丈夫なの?」
ヒデヨシはミヤの答えに驚く。
そうして、小さな声でミヤに話しかける。
明日のため、というのは、明日の小テストのことについてだ。
ゲームの中でいくら40人のプレイヤーに勝ったとしても、現実では平凡なただの高校生である。
そんな高校生には言わずもなが、小テストというものが存在する。
明日はそんな小テストが行われる授業の日。
ヒデヨシは過去にサライをプレイし過ぎて学校の成績が悪くなったことがある。
その時は両親にかなり怒られてしまった。
しかもその時は姉ともいろいろあった時だったから、余計に辛かった。
それ以降、ヒデヨシは学業とサライを両立することに、一種の執念に似た様なものを抱いている。
ミヤは基本的に真面目で、成績は良くしたいと思っているので、ログアウトだろうとヒデヨシは思っていた。
しかし、ミヤがもう少し練習してから、と言ったのにヒデヨシは悩む。
感情に従うのなら、ヒデヨシも残ってミヤと一緒にいたいが、
「ヒデヨシは気にしなくていいよ。
明日のやつは私もう十分勉強してからきたから」
ヒデヨシの様子を察したミヤが笑顔でヒデヨシにそう語りかける。
そんなミヤに、ヒデヨシは心配になりながらも、後ろを振り向いた。
そこにいた【灯台】のメンバーをしばらく睨みつけた後、
「………………先にログアウトしてるよ」
ミヤがルイと仲良くなっているのは、試合を始める前に見ていた。
それにチャチャがいないから別に面倒なことも起きないだろう、とヒデヨシは考える。
そんな思考がしばらく続き、長い間の後に、ヒデヨシは了承した。
「ヒデヨシは心配性だねほんと」
ミヤはそんなヒデヨシの様子を見て、言葉を発す。
「……ま、当たり前だよ」
ヒデヨシはミヤの言葉に、当然のように返答する。
「……ま、確かに、そうだよね、うん」
ミヤはその言葉になんだか考えながら話す。
そうして顔を上げ、ミヤはヒデヨシに、
「ヒデヨシはもう時間もないだろうからログアウトしな。
私もすぐにログアウトするから」
「う、うん、わかったよ」
ミヤの元気一杯な状況にヒデヨシは気圧されながらも、ログアウトを選択する。
ヒデヨシがいなくなり、静けさが同情を包み込む。
「あの」
そこでミヤが静寂を打ち消す。
【灯台】の視線がミヤに集まる。
「お願いがあるんです」
【灯台】は、ミヤの視線を見て思う。
真っ直ぐな目だ。
「私は、このゲームをヒデヨシと楽しむためにプレイしています。
だけどみなさんもわかっていると思いますが、私にはヒデヨシの隣に立つ資格が、力が足りない」
ルイも、オイチも、アマリも、その場にいた全員が思った。
あまりにも無謀すぎると。
「でも幸いにも、きっと私はこのゲームに向いていると思います。
強くなれるかもしれない」
確かに、ミヤの才能は確かだ。
【灯台】の一番隊を相手に本気を引き出し。なおかつその攻撃を耐えるプレイヤー。
「だから、私は、あなたたちに、修行をお願いしたいです」
途切れ途切れな言葉。
一言一言を、慎重に、丁寧に選んでいる証拠だ。
ミヤだって、別に【灯台】と仲が悪くなりたいとは思っていない。
むしろ仲良くしたいくらいだ。
だからこそ、今からのお願いは、あまりにもおこがましくて、不躾である。
「ヒデヨシが背を預けてくれるような、そんなプレイヤーになりたい。
だから、あなたたちの……【灯台】の力を貸してください!」
あまりにもまっすぐで、なんだか懐かしささえ感じる姿。
【灯台】のメンバーは、謎の寂寥感に浸っていた。
もしこれを言葉にするなら、己の幻影、とでもいうのだろうか。
昔はこんなにも目を輝かせて、力を追い求めて、楽しそうにゲームをプレイしていたのか。
そんな感情を、言葉にできずに抱えながら、ルイが返答をしようと思ったその瞬間、
「いいよ」
ルイの声でもない。
オイチの声でもない。
でも、女の人の声。
ミヤがその方向に視線を向けると、そこに立っていたのは、ポニーテールの女性。
そのポニーテールは地面に着きそうなほど長く、艶やかな綺麗な髪。
気の強そうなつり目に、端がキュッと上がった口元。
肩に担いだ大刀は、普通のものより少し大きく、持ち上げているのが不思議なくらいだ。
「【灯台】全て……【神出鬼没】、【道標】、そしてこの【毀滅】の チャチャも含めて、あんたをヒデヨシをも超えるサムライにしてやんよ」
偉そうに話している女性は、【灯台】の面々から、姉御、と呼ばれた。
道場に関して
広さを自由に設定できます。
広さとして最大が、バスケットコート二面分+α。
二階をそれに追加してつけることができる。
気温も自由に選択出来る(人体の限界まで)




