二十七
アマリは確信できていなかった。
勝てることを。
自分たちは今まで何人もの二つ名持ちを討伐し、そんじょそこらのプレイヤーには負けない。
なのに頭のどこかで、自分たちの勝利が明確に描けない。
「近遠複合、両翼の陣」
一番隊のメンバーに指令を下す。
これは【灯台】の基本戦術の一つ。
戦術と呼ぶには単純すぎるそれは、その分練度と連携が如実に出る戦法。
【灯台】は【アマゾネス】のように、戦い方を柔軟に変化したりといったことはしない。
【灯台】は万人に通じる必勝の戦い方を考える。
そこにあるのは、絶対の自信。。
この戦術ならばいける、倒せるという確信。
揺らぐはずのない自信。
なのに、額の汗は止まらない。
アマリは周りを見る。
皆も一様に緊張し、強張っている。
アマリはその姿を見て、自身の緊張が和らぐのを感じた。
「言伝だ」
「はっ」
一番隊は【灯台】の意思を象徴する小隊。
そのリーダーであるアマリは、告げる。
「相手はただのリア充だ、殲滅しよう」
と言っても、ここはゲームである。
真剣に、大真面目に、遊ぶ。
だから、この場において緊張など不要。
ここにあるのはただ一つ、純粋な遊び。
「構えろ」
はじめの合図はヒデヨシから。
だがら当の本人は未だに刀を抜かず、自然体で隙だらけな格好をしている。
だが、アマリはその様子に身震いした。
一見隙だらけのあの立ち居振る舞いに、隙など無い。
「やはり二つ名、か」
二つ名。
それはイベント上位10名に付けられるもの。
このゲームのサービス開始時から、この制度は続いている。
月に一度のペースで行われる運営のイベント。
更にはプレイヤー産のイベントも一月に一回のペースで行われる。
そんなペースでイベントを行なっていれば、二つ名はどんどん増えていく。
なら、二つ名が絶対の強者というイメージは崩れ去ってしまうのではないだろうか。
答えは、ノーだ。
確かに、イベントの上位10名に入れば二つ名はもらえる。
が、その中で二つ名を受け取るものは、その中でも、一割しかいない。
つまり、二つ名受け取るものは、一回のイベントで、平均一人。
有るのだから名乗ればいい。
そう思われるだろうが、実際に拒否したプレイヤーは、口を揃えて言う。
“自分には重すぎる、その名は受け取れない”
イベント上位にはいる人間だからこそ、トップを、上を見てしまう。
圧倒的強者との差。
誰もが見たことのある、二つ名持ちの一騎当千の力。
それを見た上で、自分たちも同じことができるのか。
そんなことを考えてしまうのが、このゲームのプレイヤー。
だからこそ二つ名はは絶対強者の証。
現にアマリはイベントに五回の入賞を果たし、その全ての二つ名を断った。
「開始」
ヒデヨシの開始の合図が聞こえる。
アマリはその声に、同時に男達が怒声をあげる。
その怒声とともに迫っていく【灯台】の男達は、まるで機械科のように完璧に動いていく。
二、三番隊がヒデヨシを囲うように両側に展開する。
この二つの隊は接近隊。
太刀を主とした構成で、刀での連携という不可能に近い所業をやってのける。
後ろにいる四、五、六番隊が大太刀を主体とした遠距離攻撃を行う。
【灯台】の小隊においての近接、後衛の比重は、後衛の方が多い。
近接戦において、刀が連携を行うことが苦手だと言うことを十分に理解しているためだ。
斬撃、炎、電撃、風、水。
様々な遠距離攻撃がヒデヨシの目の前に展開された。
まるで壁のように、ヒデヨシに襲いかかる。
これでヒデヨシには、遠距離攻撃を対処する、横、又は空中に避ける、という選択肢しかない。
さらには両翼の接近隊は先回りしているため、回避しようとも追撃を行える。
もしどこかが欠けても、六番隊以降の第二陣がいる。
負けない。
普通に考えたら、だ。
このゲームの普遍のルール。
三撃の斬撃で死に、十五撃は間違いを侵せる。
【灯台】は今のように、相手の選択肢を絞り、強要する。
その選択肢はどちらかが最善のように見えて、どちらも傷を追う。
そうやって相手に最善を選択させる。
そうして、傷を積み重ねさせる。
最後には、相手に敗北の選択を強要する。
その戦い方こそが、凡人が凡人のままに、二つ名を確実に殺す方法。
【灯台】が考える、戦いだ。
二つ名持ちは、須らく天才。
そしてアマリも、ひいては【灯台】の皆も、思っている。
自身は天才ではないと。
ならばと考えた、一つの集団となり一つの化け物(二つ名持ち)を倒すこの方法。
相手も自分たちも同じ条件、チートなんてものは存在しない。
そんな状況で、集団を組めば、強いに決まっている。
ずるいだろうか?
ずるいに決まっている。
だが、そんなことでも勝てるなら、斬れるなら。
ダン
空気が、揺れた。
【灯台】はその戦法で確実に二つ名に勝てているわけではない。
確かに、それは【灯台】の練度の問題なのかもしれない。
確かに、それは【灯台】が相手の研究をし、【アマゾネス】のように柔軟な対策を取っていないからかもしれない。
だが、それ以上に、
「阿呆面を晒してるぞ」
目の前の化け物(二つ名持ち)が、想像以上に化け物しているからだと、【灯台】のメンバーは考えている。
☆☆☆☆☆
生い茂る草。
ヒデヨシの周りには、道場とは思えないほどの草が生い茂っていた。
「これは……『森の守護者』?」
アマリの口から、もうここにいない人間のことが漏れる。
「お、勘づくまでが早いねぇ」
ヒデヨシは、その言葉を聞き取り、返答する。
「まさか、本当に……」
二つ名は、自身の持つ刀に絶対的な練度と信頼を持つ。
それ故に同じ刀を持って二つ名になるためには、それ以上の練度を有するか、より差別化された戦い方をしない限り、それ以上にはなれない。
「だからこそ、か?」
アマリは笑う。
それはこの絶好のチャンスに。
最高の倒せるチャンスに。
「【豪腕ゴリラ】への勝率は?」
「八割程度です」
一番隊のメンバーは、確信した。
二つ名の中でも、【灯台】が得意な相手と不得意な相手がある。
そして、【豪腕ゴリラ】は、その得意な相手に分類される。
「出るぞ」
目の前には、【豪腕ゴリラ】と同じ刀を持つ、劣化版。
勝てる。
ヒデヨシの本当の刀は、違う。
『太閤検地』『刀狩り』
その刀は【羽柴】の名を冠するものに由来する刀。
『森の守護者』を使ったことなど聞いたことがない。
むしろその刀が得意であれば、【羽柴】なんいて二つ名を得ているはずがない。
一番隊のメンバーが、アマリの言葉に頷く。
アマリの核心を後押しするかのように、
一番隊は、特殊な小隊。
一番隊は、それ自体で完結している。
近接も、後衛も、回復も、補助もいる小隊。
それこそが、一番隊。
「近接を援護」
その一言で、一番隊のメンバーは動き出す。
既にヒデヨシに向かっている二、三番隊。
第二波を構える後衛。
それを援護するように向かう一番隊。
【豪腕ゴリラ】なら、後衛の第四波までに勝てる。
近接の小隊も、【豪腕ゴリラ】の対処には慣れている。
残りの小隊には欠けた隊員の補充を命じる。
被害は最小に。
予想は八人。
【豪腕ゴリラ】と戦う時に発生してしまう被害人数の半分。
ドゴンッ
大きな音。
それと同時に発生する草。
アマリはその草を見て、思う。
【豪腕ゴリラ】と似ている。
初撃はその強力な一撃を地面に当て、大量の草を発生させる。
人が飛ぶ。
そして次に、自分を軸として一回転の横の斬撃。
そして、先ほどより大きな草が生い茂った。
その勢いをプラスした最大威力の一撃をさらに地面に叩きつけ、空中に避けた敵を迎撃をする。
そこで、アマリに違和感が生じる。
【豪腕ゴリラ】と戦い方が似すぎではないだろうか。
当然、【豪腕ゴリラ】との戦いに慣れている近接の小隊は、一人だけ逃げ遅れたものが斬られただけで済んだ。
そうして始まる、第二波。
ヒデヨシの体には、遠距離攻撃と近接攻撃でできた、四本の擦過傷。
こうしていれば、勝てる。
これが【灯台】が【豪腕ゴリラ】に勝った方法。
後衛が、攻撃を放つ。
「なめるな」
聞こえた。
確かに。
そこで、アマリは気づく。
相手は【豪腕ゴリラ】ではない。
【羽柴】だと。
その瞬間、目の前に大太刀が現れる。
体躯の大きいアマリより少し大きい大太刀。
薄く緑色に輝くその鉄の輝きに、見惚れる。
そして、アマリの視界は緑に染まった。
気づく。
大太刀ごと突進されている。
自分は、攻撃を受けている。
自身の持つ短刀を投げようとする。
アマリの持つ短刀は、『先見』
能力は、『短刀の持っていない方の手で触れているものを、短刀の近くに転送』
一見強力な能力だが、副作用として『一度の斬撃を受ける』
ハイリスクハイリターンの刀。
それを投げれば、逃げられる。
投げるまで、あと1秒にも満たない。
指から離れ、逃げれる距離になるまで、2秒はかかるだろう。
それが、待ち遠しい。
そう思ったその瞬間、アマリの体は一刀両断されていた。
☆☆☆☆☆
「なに……あれ」
ミヤには、目の前の光景の意味がわからなかった。
確かに目の前で戦っているのはヒデヨシだが、戦っているのは、本当にヒデヨシなのだろうか。
「【豪腕ゴリラ】そのものやねぇ」
オイチがルイとミヤの近くに現れる。
「そうだね、まさかヒデヨシがこんなことができるなんて……」
ルイは、冷や汗を流していた。
ヒデヨシが実用レベルまで【豪腕ゴリラ】を再現したことに、ではない。
ヒデヨシが【豪腕ゴリラ】の戦い方のまま、倒されることなくアマリを倒したことにだ。
さらに言うならば、ヒデヨシがアマリを倒した時に行った体験を使っての突進。
あんな行動を【豪腕ゴリラ】が撮ったことを見たことはない。
つまり、
「【豪腕ゴリラ】の上位互換やね」
ルイは頷いた。
そうして、殺戮は始まった。
ヒデヨシがアマリを斬り、最初に倒したのは、一番隊。
全ての小隊の中枢で有り、束ねる小隊。
それがいなくなれば、どうなるだろうか。
個々の素質が低いわけではない【灯台】。
そして人数もいる。
一番隊が崩れてもなお、機能する連携。
まだ負ける要素はない。
だが、それ故に焦った。
ヒデヨシの【豪腕ゴリラ】に似た、だがそれ以上に厄介な戦い方をしていることに。
【豪腕ゴリラ】に勝った戦い方は通用しないのでは?
そんな意思が、迷いが、【灯台】の刀を鈍らせる。
そうして、ヒデヨシは六の擦過傷を負っても、【灯台】八小隊全てを斬った。
道場は、草原に変わっていた。
設定はあんまり思いつかないので、今回はお休みします。




