二十五
「ミヤさんって集団戦のご経験ありますか?」
イチャイチャした後、二人は道場の中に入り、ルイと話す。
ルイは先程まで2人がイチャイチャしていた事には全く気づかず、至って普通に話している。
「集団戦の経験は……ないかなぁ……」
ミヤは同時に二人と戦ったことしかない。
そもそもが経験の少ないミヤからしたら、大体の戦いが初体験のものばかりだ。
「ミヤはこのゲーム始めて一週間も経ってないんだよ」
「あ、そうなんですか」
それを察したようにヒデヨシはルイに答える。
その言葉に少し考えるルイ。
唐突に顔を上げたルイは、ミヤに向かって軽く
「ならやってみますか? 集団戦」
「えっと、あの人達とですか?」
ミヤが指さしたのは男達。
そう、ルイをお嬢と呼び、ルイの一言で動いた、筋肉の引き締まった男達だ。
そんな男達は道場の中心で各々で戦い合い、汗を流している。
「そうですね、それなりには強いと思いますよ」
それなりに、という言葉で収まるのだろうか、とミヤは心配になる。
男達は引き締まった身体を軽やかに動かし、羽根のように刀を振るっている。
「……まずは三人とか少人数からやらせてくれよ」
「もちろんですよ、ヒデヨシさん」
ヒデヨシが不安そうに話す。
その言葉にルイは常識知らずだと思われていたのが心外だ、と言うように返す。
ミヤもあんな強面な男達を相手にすることは初めてなので、尻込みしてしまうが、
「じ、じゃあお願いしようかな……」
そうして、ミヤは筋肉まみれの男達と戦うこととなった。
☆☆☆☆☆
「じゃあまずは5人くらいと戦ってみようか」
「おい確認した傍からそれかよ!?」
「集団戦を学ぶにはこれくらいからじゃないといけないですよ」
当然のように五人の男達が選抜され、ルイの後ろに控える。
そのメンツを見て、ヒデヨシはあぁ、とため息をついた。
「大丈夫大丈夫、うちの最小構成ですから」
「最小構成っても『灯台』の一番隊じゃねぇか……」
「『灯台』?」
ミヤがヒデヨシのセリフに疑問を覚える。
「そうだよね、言ってなかったね……。
ここにいるメンツは、『灯台』っていう名前の同盟なんだよ。
それで、『灯台』の最大の特徴は、高いジャイアントキリング成功率。
二つ名持ちを率先して倒す同盟で、その実力は文句なし。
二つ名持ちからしたら最高に面倒くさい相手」
「『羽柴』のヒデヨシ殿にそう言ってもらえるとは、恐悦至極でございます」
いきなり話に入った、ルイの背後にいた男。
その男は、他より人周り背が大きい、片目に傷跡をつけた男。
その明らかに物騒な顔に、ミヤは一歩後ろに下がる。
「どうも、『灯台』一番隊隊長、アマリです」
「あ、どうも……」
そんな強面な男は、凶悪な笑みを浮かべながら手を差し出してくる。
恐る恐る手を差し伸べるミヤに、ヒデヨシが後ろから、
「その人の悩み、娘に好かれない、だから色々教えてあげれば?」
「ほんとですよぉ!」
いきなり大声を上げたアマリに驚くミヤ。
「いやほんと、娘が典型的な反抗期になってしまって、自分は娘から尊敬されるとまでは行かずとも、嫌われることはしていないはずなんですけど、なぜかよくわからないけど敬遠されてしまうんですよねぇ……。自分なりに加齢臭とか娘に嫌われる要素は極力気をつけていると思うし……。それに口出しとかも極力避けているんですが……。それに……」
強面なはずなのにここまで真剣に娘について話しているアマリは、ギャップが激しく、一気に話にくさがなくなった。
「えっと、お父さんが何考えてるかわかんないんじゃないですか? 娘さん」
だが、話を聞いていて思わず出てしまったミヤの言葉に、アマリを凍りつかせる。
何か言ってしまったかと、ミヤが恐縮したその瞬間、アマリがミヤに詰め寄る。
思わず身構えてしまうミヤ。
その瞬間、目の前が暗くなる。
「VRセクハラになりますよ」
ま、俺が言えたことじゃないですけどね、と自嘲気味に話すヒデヨシ。
隣に立っていたヒデヨシがミヤをかばうように目の前に立ったのだ。
アマリの胸元に手を当て、注意するヒデヨシに、アマリは冷静さを思い出し、
「すいません、取り乱してしまいました」
素直に謝る。
その様子にヒデヨシはミヤの方に振り向き、
「ま、怖い人ではないから変に警戒しなくてもいいと思うよ」
「確かにそうだね……」
苦笑いしながらミヤは頷く。
その様子を見たヒデヨシは、それでと付け足し、
「話の続きだけど、【灯台】はジャイアントキリングをするために小隊を組んでいる。
その数は十。
それぞれの小隊に特徴があって、それがまた面倒。
その中で、特に一番隊はみんなが戦いたくない相手って言われてる」
「ヒデヨシありがとうね、解説」
ヒデヨシの話が終わり、ルイが割り込んでくる。
「とりあえず、ミヤさんも集団戦してみたいって言ってるから、やってみようか」
はっ、という言葉と共に一番隊と思われる、アマリを含めた五人は動き始める。
既に道場の真ん中は広いスペースを取られていて、十分に戦える。
ミヤは五人組を相手にして、ルイに尋ねる。
「あの、私の方に仲間の方とかは……」
ルイは質問の意味を分かりかねているのか、首を傾げる。
ほかのみんなも意味がわからないのか、答えれずにいると、
「あ、サライにおける集団戦って、一人
対多人数の戦闘のことを言うんだよ」
話忘れててごめん、とヒデヨシが回答する。
その言葉にほかのみんなもミヤが何を言っているのかに気づき、あぁと声を漏らす。
「あー、とりあえず頑張ります……」
ミヤは自分の勘違いを悟り、刀に手をかける。
それに応じるようにミヤと相対する男達も刀に手をかける。
「ま、それじゃあ設定はいつもの……って言ってもわからないですよね。
設定は三斬死亡、擦過は五回で一斬。
一応ハンデとしてこちらは危ない時以外は刀の能力を使わないから。
大丈夫ですか?」
ミヤの方を向いて説明するルイに、頷き返す。
男達は既に臨戦体制で、五角形を作るように配置についている。
「それじゃあ、はじめっ!!」
男達が、走り出す。
配置を一切乱さずに走るその様子に、すごいなという感想を抱いてしまうミヤ。
五角形うちの前二人が斬りつけてくる。
後ろに下がっても追いつかれる。
横に良ければ第二陣である二人に斬りつけられてしまう。
避けるのは、愚策。
一瞬のうちの判断の末、ミヤがとった行動は、
刀の能力を発動、二刀流に。
一方の刀を斬りつけてくる一人に投擲。
防がれる。
もう一人の刀を、手元の刀で弾く。
隙ができる。
刀の能力を解除。
再度発動。
一瞬の隙を逃さずに、ミヤは相手を一刀両断する。
一撃死亡とみなされ、一人が脱落。
ポリゴンの粒子となる。
当然、五角形に配置取っていることで、隣接する頂点に当たる二人が襲いかかってくる。
前と横。
二刀を持って対処しようと思ったが、そこでミヤは大きく後ろに跳躍する。
ミヤが目で捉えたのは、刀。
自分が元いたであろう場所を通り過ぎた刀。
誰が投げたのかはすぐにわかる。
アマリ。
そこまで判断したところで、ミヤは寒気を覚えた。
着地と同時に、体を大きく沈め、前に進む。
目の前には三人しか映らない。
そう、三人だ。
後ろで風切り音が聞こえる。
そんなことを気にしている余裕はない。
ミヤは即座に目の前の三人のうちの一人を、すれ違い様に二回斬る。
そして、通り過ぎた後、後ろを振り向き刀を投擲。
刀は円を描きながら二回斬りつけた男の腕を斬った。
無理な体制で刀を投げたせいでゴロゴロと道場の床に転がるミヤ。
男達と距離をとったおかげで一瞬の静寂が生まれる。
ミヤは余裕そうに見えて、内心冷や汗が止まらなかった。
息が上がる。
ゲームの中のはずなのに、心臓の音がうるさい。
「すいません」
アマリの声。
見ると、目の前の三人の男達の顔つきが変わっていた。
「初心者と侮るあまり、私たちは心のどこかで手を抜いていました。
そのせいでこんな体たらくをお嬢に見せることになってしまい、大変お恥ずかしい」
深々と頭を下げるアマリ。
隙だらけに見えるそんな所作に、隙はない。
「なので、私たちも警戒のレベルを引き上げ、“対二つ名持ち”と想定してお付き合いいたしましょう。
フルメンツで戦うことができなくて非常に心苦しいですが、お付き合いください」
アマリが顔をあげたその瞬間、ミヤは見えた。
自身に向かってくる刀を。
しかし、極限まで真っ直ぐなその刀は、正面から見ると鍔しか見えない。
気づくのに、遅れた。
ミヤが体を捻り、間一髪のところで顔を逸らした。
と思ったその瞬間、
ミヤの胴が、一刀両断された。
【灯台】について。
本文記載の通り、ジャイアントキリング(二つ名持ちボコる)を主とする同盟。
基本小隊五人×十小隊で構成される。
しかし、【灯台】の中でも例外が存在する。
その強さゆえに一人一小隊を担っている三つの例外隊。
その三人はそれぞれ二つ名を有する。
【道標】ゲンブ
【神出鬼没】オイチ
【毀滅】チャチャ
なんでジャイアントキリング主体の同盟なのに二つ名持ちが? という質問に関しては、おいおい説明が入ります。




