二十四
「あ、ルイちゃん」
「お久しぶりですヒデヨシさん!」
ヒデヨシに急に話しかけてきた美少女……ルイは、ヒデヨシに手を振って近づいてくる。
その様子に軽く手を振り返しながら、ヒデヨシは尋ねる。
「あれ?今日メンバーは?」
「今日はたまたま僕だけ休みが取れて」
「……まーた撒いたな?」
肯定はしないにしても、舌を出しながら可愛い顔をするルイ。
その表情に頭を抱えるヒデヨシだったが、
「あ、今回のイベント、ヒデヨシさんどっちにするんですか?!」
「あー、今回は確かにそっちも出るよねぇ……」
さらに違う意味でも頭を抱えた。
ヒデヨシが目の前の超絶美少女を前に苦戦していると、
「ロリコン」
「うわっ?!」
後ろからいきなり声をかけられた。
ヒデヨシが驚いて後ろを振り向くと、そこにいたのは、ミヤ。
「出会い頭にロリコンはちょっとひどい通り越してるよ……?」
「いや、だって」
ミヤが指差すのは、ヒデヨシの腰元。
そこには当然、背の小さいルイがいる。
そのルイは、いつの間にやらヒデヨシの和服を掴んでいた。
「あ、す、すいません……」
頰を赤く染め、パッと手を離すその姿はまさに恋する乙女のように見え、
「え、マジ?」
「な訳あるかい?!」
思わず嫉妬やそういうものを通り越して、犯罪者を見る目でヒデヨシをみるミヤ。
その様子にふふふ、と笑ったルイ。
ヒデヨシとミヤは揃ってルイの方を見る。
「あ、いや、仲がいいなぁ、って思って……」
両手を振って弁解するルイ。
そんな様子に微笑みながら、ミヤはルイと同じ目線になり、
「私はミヤ。
このヒデヨシの知り合いよ、よろしく」
「あ、どうもありがとうございます」
丁寧に返すルイに、ミヤは出来た子だなぁと思う。
「あ、自分はゲンブ、といいます。
【道標】、と巷では呼ばれています。
よろしくお願いします」
その自己紹介を聞いてミヤはまた二つ名持ち、しかもこんな小さい子が? と勘ぐってしまう。
「まぁ、確かに最初にルイの姿を見た人はそうそう二つ名持ちとは思えんだろうな」
「確かに、自分で言うのもなんですけど、見た目が伴ってないですよね……」
ミヤの疑心な眼差しで二人は苦笑いをうかべる。
「あ、いや、別に疑ってる訳じゃなくて、刀持ってないから不自然だなぁ、って」
ルイは刀を持っていない。
確かにこのゲームは常に帯刀することにそんなに意味は無い。
基本的に城下町では刀を振るうことがないのだ。
それにイベントが始まる時はいつも何らかの告知があるため、それから帯刀すればいい。
だがこのゲームの人間はあまりにも斬られ、斬り返しを繰り返しているため、持っていないと落ち着かないという人間がいるのが事実だ。
「いや、僕もいつも持ち歩きたいんですけど、僕のは通常時に持ち歩くのが大変で……」
「あっ」
そこでミヤは気づく。
外見年齢10歳のルイちゃんは、当然ながら身長も低い。
つまり帯刀していると動きづらいのでは? そうミヤは考えた。
「ごめんね、不躾な質問して」
「いやいや、別に気にしないでください! 帯刀していないほうがおかしいんですから」
ルイは気にしないでと微笑んでいる。
その大人な余裕にミヤは年下なのだろうかと疑ってしまう。
「えっと、それでお二人は今日は何かお予定でも?」
「今日はイベントのための対策かな。
リアルが忙しくて時間がないんだよね」
ヒデヨシの返答にルイはそれじゃあ! と手を叩き、
「私たちの同盟と一緒に対策しませんか?」
思わず顔をしかめてしまうヒデヨシ。
ルイのこの発言は完全なる善意のものであると、ヒデヨシは思う。
だが、ルイの同盟のメンツを考えるに快く頷くことができない。
そうして答えるのをためらった瞬間、
「こちらこそお願いしたいな!」
ミヤがすでに返答していた。
ヒデヨシは止めようと思ったが、今回の目的はあくまでミヤが楽しめる状況を作ること。
それなら別に断る理由もないな、と黙った。
その様子を見たルイは、その沈黙を肯定と捉え、
「よっし! それっじゃあいこう!」
元気よく先導した。
☆☆☆☆☆
道場に辿りつき、中に入る。
「前と同じだね」
「道場はどこから入っても同じ構造のところに来るんだよ」
前回とは別の入口から入ったため、違うことを期待していたミヤ。
「道場はそんなに利用されると思っていないかららしいよ」
「え、結構使うと思うんだけどなぁ」
「確かに、上級者になれば結構利用しますよね」
ミヤとヒデヨシの会話に入るルイ。
ミヤは未だにルイが強いことを信じられていない。
だがまぁ、いずれ分かるだろうと道場に入ろうとする。
ガシッ
そこで後ろからヒデヨシに腕を掴まれる。
「なに?」
「いや、ルイの同盟の人がいるから、先に入ってもらった方が入りやすいよ」
苦笑いをしながら言う姿にどこか違和感を覚えるが、ヒデヨシはルイに先に入ってと伝える。
ルイは少し苦い顔をしながらも、道場に足を踏み入れた瞬間、
お嬢!!!!
耳が耐えきれないほどの声を聞いた。
キーンと鳴っている耳を押さえながら、類の方を見ると、
「うわ」
筋肉、だった。
思わず声を漏らしてしまう程に筋肉の群れがルイを取り囲んでいた。
はち切れんばかりの肉体は、和服の上からでも分かるくらいに発達している。
さらにその筋肉たちの出す熱気。
数メートル離れているミヤにも伝わってくるほどだ。
「相変わらず、筋肉しいことで」
筋肉しい、という単語に思わず納得してしまうミヤ。
意味はわからないが、目の前の光景がそうだと言われれば、頷ける。
「みんな」
先程からワイワイとルイを囲んでいた男達が静まる。
後ろから見えた横顔は、笑っていたが、笑っていなかった。
そんな矛盾した感想を抱いたミヤは、息を呑む。
「客人、ヒデヨシとミヤ」
男達は二人の方を見るなり、殺気立つ。
意味のわからない殺気に困惑していると、
「恥、かかせたいの?」
空気が、凍った。
ミヤはその声の先を見る。
確かに今のはルイの声だったが、それが信じられない。
あんなに笑顔で、楽しそうにしていたルイが、こんな空気を作れるということが。
緊張。
意図が張りつめたような空気。
「はいはい、みんなそんな緊張なさんな」
そこで聞こえてきたのは、手を叩く音と、柔らかな女性の声色。
ここにいる人間のものでは無いその声にミヤは誰かいるのかと思うと、
「あらヒデヨシちゃん、可愛い子連れてるじゃないの」
ルイの隣に、尼がいた。
重そうな僧侶の服装に、頭を覆うような大きな頭巾。
尼、という言葉がぴったりのその服装はすごく目立つ。
だが、とミヤは考える。
「いつの間に?」
「さっきからずっと」
口から出てしまった言葉に、ヒデヨシがこっそり返答する。
ミヤはその言葉に驚く。
「そういうのが得意な人だから、気にしない方がいいよ」
ミヤが認識できなかったことに驚いていると、ヒデヨシから心を読んでいるようにフォローが入る。
「ほらほら、何をやってんの男ども、さっさと客人を案内するんだよ」
尼さんはぼさっとしている男達に声をかける。
バタバタと道場の中に入る男達を見ていると、
「ヒデヨシちゃん、あんたこんなべっぴんさんよく連れてきたねぇ」
いつの間にか目の前に来ていた尼。
だがヒデヨシがミヤを隠すように位置取る。
「ケチケチせんといてぇな。
うちの男共には一切ない華やないの」
「チャチャさんがいるじゃないですか」
「あの子はベクトルが違うわぁ。
べっぴんさんはべっぴんさんでも、美しい部類やもの」
「見飽きた、と言ってもいいんですよ?」
少しトゲのある言い方がヒデヨシらしくない。
ミヤはそんな事を思う。
「ほほほ、そんなに噛みつかんといてや。
こんな存在感のないもん相手にしてもなんもあらへんで」
「いえいえ、その存在感のなさだけで、ランカーになった【モトクラシ】さんはそんなこと言わないでくださいよぉ」
わざとらしくウザイ言い方に、ミヤは二人の間になにか因縁でもあるのだろうかと考える。
そしてそんな一言に尼はピクリと反応した。
「いやいや、あん時は感謝してるで、【羽柴】さん」
ふふふふふ、と二人から不穏な空気が流れる。
ミヤはヒデヨシの後ろにいるせいで、肌寒く感じてしまうくらいだ。
「なにしてんのみんな?
早くやろうよ!」
そんな二人にルイから声がかけられる。
二人は不穏な空気を収めた。
「はいはい、そんな急がんでください。
ゆったりもいいですよ」
「分かってるけど楽しみだからさ」
ルイの眩しい笑顔と先程の冷徹な表情が頭の中で結びつかないミヤ。
だがそれよりヒデヨシはどうしたのだろうと顔を上げると、
「ん?」
超近距離まで顔が近づいてしまった。
いきなり目の前に顔が現れるとさすがに驚く。
バッと二人は顔を背ける。
ミヤは段々と熱くなっていく顔を手で扇ぐ。
「ご、ごめん」
「いや、こっちも申し訳ない」
「さ、さっきの人となんかあったの?」
「……さっきの人は俺がランカーになった後のイベントで、ランカー入りを阻止した人。
ま、連勝記録を止められた、って人かな」
え、そんなに強いの? とミヤは道場に入っていく尼を見る。
尼の姿からは強さの片鱗を感じ取ることは出来ないでいると、
「顔赤いよ?」
ヒデヨシに聞かれる。
ミヤは急いで隠そうとするが、ヒデヨシは笑いながら、
「お揃い」
下から顔を覗かせる。
そこには、真っ赤なヒデヨシの顔があった。
表情に関して。
オールセンシティブマシンは、脳に近いところに設置する課程で、表情筋の読み取りが正確にできる。
つまり、表情の情報が多いとも言い換えられる。
顔の色や気配など、意識してみるところ以外の部分も顕著に現れるので、恋愛ゲームはまるで本当の人間と行っているようだと言われている。




